eight bullets 新チーム反省会
5分後、試合は終了した。制限時間が来て、俺達のチームの方が相手チームより人数が少なかったため、俺達の負けとなった。
「みんなお疲れー」
臼井さんがゴーグルを外しながら爽やかな笑顔でチームのみんなをねぎらった。
「すみません。油断してました」
滝本さんは眉尻を下げて謝る。
「滝本さんだけが悪いわけじゃないよ」
「まだ出来立てのチームと連携の取れたチームで戦って、この結果は妥当だ」
北原さんは銃床を折り畳みながら勝利を期待してなかったようなことを言う。臼井さんと滝本さんは北原さんのサバサバした言い草に苦笑する。
「エヴァンスチームのみなさん」
相手チームであるここのスタッフが防具をつけたまま控室に入ってきた。
「ああ、お相手ありがとうございました」
臼井さんはしとやかに会釈する。
「いいゲームでした。これからも頑張ってください」
相手チームは俺達のチーム1人1人に手を差し出す。俺達はお互いに敬意を示すように握手を交わした。
スタッフの方達が控室を出て行くと共に、俺達もゾロゾロと続いた。セーフティエリアで飲み物を買い、滝本さんが持ってきたスナック菓子や小さなバームクーヘンの差し入れが置かれた灰色のテーブルを囲む。
「うーん。こうやってお茶をしながらおやつを食べるのもいいね~」
臼井さんは満面の笑みで和んだ雰囲気に浸る。
「これをエヴァンスチームの恒例にしてもいいですねえ」
児島が同調する。
「お茶って言ってるけど、誰も紅茶を頼んでる奴いないけどな」
北原さんが優雅なティータイムごっこをしている児島と臼井さんに水を差す。
「先ほどの試合の反省会でもしますか」
一条さんは真面目だな。
「そうね」
「最初は良かったですよね」
児島は楽しそうに話す。
「はい。押していたように思いました」
滝本さんが同調する。
「2人目をやったところだよなぁ。一気に傾いたのは」
どうやら北原さんは俺と同じことを考えていたようだ。
「俺の判断ミスだった」
「最終的には私のミスだったね」
臼井さんは俺を気遣う。臼井さんもリーダーとして責任を感じているようだ。
「両サイドからの同時射撃は勉強になりました」
一条さんはテーブルに両腕をつきながら両手を組み、しみじみと感心する。
「アレはやられたな。敵の動きを察知してないと防ぎようがない」
北原さんはお手上げと言わんばかりに肩を竦める。
「みなさんはどうすれば良かったと思いますか?」
俺達は滝本さんの問いに押し黙って考える。
「え、単純に両サイドに随時配置すればいいんじゃないですか?」
児島は簡単な話じゃんと言いたげに話した。
「随時人数が足りていればな」
「へ?」
児島は俺の返答に不思議そうな表情をする。
「随時両サイドに配置していたら、両サイドにいることを察知され、無駄な的になってしまいます。そうなったら僕等のチームが必然的に不利になるんですよ」
一条さんは児島に詳しく説明する。
「児島の話を応用するなら、両サイドに人員を配置するよりも、両サイドへの警戒を常に持った方が無難だよな」
北原さんはチップスを2、3枚一気に取って口に運ぶ。
「だが、そのやり方は敵のかく乱によって隙が生まれてしまえばそれまでだ。その一瞬の隙を突いて、両サイドからの攻撃を行える。ま、対策を取ったからって完璧になるわけじゃない。その方法が一番いいことに変わりはないからな」
俺は意見を言いきってコーヒーを飲む。口の中に広がる苦味と流れる温度が体に染みていく。
「まあ一番の対策は、あの時椎堂と児島が下がらなかったらいいだけだと思うけどな」
北原さんの指摘に俺と児島、同意した臼井さんが落ち込む。
「北原さん。話がループしてます」
一条さんは苦い顔になって北原さんに意見した。
「え?」
北原さんは眉をしかめて間抜けな声を出す。何がおかしいのか分かってなかった。
「ほ、他にどこか反省点はありませんか?」
滝本さんは空気を読んで話を切り替える。
「そうだな。椎堂の行動だな」
北原さんは足を組み直し、躊躇することなく指摘する。
「お前ボーっとしてたろ。お前らしくなかった」
北原さんは気の抜けた様子で言う。気を使って責めないようにしてくれているのか、ただ単に淡泊な素が出ているだけなのか分からないが、ちょっとだけ北原さんに感謝した。
「すまなかった」
「ま、今回はチームの弱点を見つけるための練習試合だったからな。今回の問題点を踏まえて、次から頑張ろうぜ」
「そうだね」
臼井さんは気分を切り替えてテーブルのお菓子を食べ始めた。
みんなは楽しそうに会話をしていたが、俺は手に持ったままのコーヒーから立ち昇る湯気をボーっと見つめる。あの時、臼井さんの姿が一瞬汐織と重なった。
見た目は全然似ていない。それでも重なった残像の原因は分かっている。銃の独特の握り方だ。
両手で銃のグリップを包むようにして握り、指の間に指を入れる。あの握り方は汐織の癖だった。スタンダードな握り方に矯正しなかったのだろうか?
俺は首を少し横に振り、臼井さんに視線を向けた。臼井さんは美味しそうに小さなバームクーヘンを食べている。
いや、偶然だろう。俺の見間違いの可能性もある。そのほうが高い。
「どうした、椎堂」
「え?」
目の前にいた北原さんが話しかけてきた。
「他に問題点でもあったか?」
「いや……少し疲れただけだ」
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