seven bullets 悪化

 数では俺達が上。まだ挽回しようはある。

「児島。俺と乱射しろ」

「え、何する気ですか?」

「臼井。そのうちに作戦を考えてくれ」

「了解」

 俺は左に走っていく。弾がひっきりなしに飛んでくる。俺は廃材の山に隠れた。児島が1人で応戦しているようで、軽い射撃音が聞こえてくる。俺は銃から弾倉を抜き、ベルトにつけた予備の弾倉と交換する。

「児島、今入れてる弾倉はどのくらい残ってる?」

「多分もうすぐ切れます」

「じゃあ、切れたら合図をくれ。後、確認できた敵の位置を教えてくれ」

「敵はS1に1人とQ5に2人です。今切れました!」

 俺は中央に走りながら乱射する。後ろに下がって3つのドラム缶が固まった場所に移動した。

 後ろから弾が飛んでくる。おそらく北原だろう。なかなか当たらないらしい。すると、右側から前へ進む2つの人影を視界の端に捉えた。それと同時に児島が左に突っ切りながら少し前に進む。

「切れた。児島」

 俺は児島に合図を送る。前に見える児島が弾倉の取り換えに手間取っていた。児島は予備の弾倉を入れようとしたが、急いで入れようとした弾倉が手から滑った。床に落とした拍子に蹴ってしまう。

 児島は慌ててそれを拾おうとした。ほんの数十センチしか離れていない。体を少し前に倒せば、簡単に届く距離。しかし、弾倉の位置は古びた看板の陰から出ていた。

「児島、取るなっ!」

 俺は制止を促した。

「え? いたっ!!」

 児島が問い返した途端、児島の痛がる声が聞こえた。

「ヒット」

 児島はしょんぼりとしながら両手を挙げて姿をさらした。児島は端に寄り、後ろに下がっていく。


「椎堂くん、私と一条君で今スナイパーを追いかけてる。夏希ちゃんと2人で固まってる3人をやっつけて」

「待て臼井」

 俺は嫌な予感がした。弾が飛んでこなくなった。

 敵の3人は走って自陣側に戻っていく。

「どうした? 椎堂」

 北原がインカム越しに聞いてくる。

「誘導されてる。深追いしない方がいい」

「そんなこと未生も分かってるよ」

「え」

 俺の肩が叩かれた。

「さ、私達も追うよ」

 北原はいつの間にか背後にいた。全然気づかなかった。

 俺を置いて北原は先に行ってしまう。俺は戸惑いから抜け出せないまま北原に続く。


「椎堂。お前は敵に接近しろ。できるだけ気づかれないように」

「近距離戦へ持ち込む気か?」

 俺と北原はインカムで会話する。ライフルを背負う北原は前かがみになりつつどんどん俺の前を進んでいく。

 あちこちの天井につけられたスポットライトが白い光を浴びせている通りを抜けるたび、大きな葉を見せる植物に侵された壁に、何人もの俺達の影とすれ違う。安心して前に進めているが、ここまで順調に進めてしまうのも不気味だ。

「近距離戦というよりは囲い込みかな」

「どういう意味だ?」

「説明してる時間はない。とにかくお前はできるだけ敵に接近してくれればいい」

「……分かった」

 俺は敵がいると思われる右側の壁に沿って進む。北原は走るスピードを緩めた。

「じゃ、頼んだぜ」

 北原は俺とすれ違う瞬間、笑みを向けてそう言った。俺は足音に気をつけて進む。

「臼井、今敵はどこにいる?」

 俺は臼井に確認を取る。

「F3に2人。G5に1人よ」

「了解。北原から伝えられた通りに動く」

「お願いね」

 足音を消す技術は体得している。しかし、それ以外の物音ばかりはどうにもならない。だから北原はできるかぎりと言った。

 だが、北原は気配を消してみせた。俺が背後に対する注意を向けていなかったのもあるが、あれだけ近づかれていたら普通は気づく。

 北原は俺よりも息を潜めることに長けているということだ。スナイパー気質だからこそできる技なのかもしれない。それはまた北原に教えてもらおう。

 弾が至るところに当たる音は近い。早速音を消そう。足音は踏み込み方を変えることで抑えられる。かかとから地面をつけ、つま先を残して足を上げる。地面と靴底の間に小さな砂や埃によって摩擦音が鳴ってしまう。そのため、体を前に運ぶような足の動きをしてはいけない。

 これを口で言うのは簡単だが、実際にやるのとでは勝手が違う。体に染み込ませるように何度も行わなければ身につかないものだ。


 弾はまだ飛んできていない。俺は物陰に身を隠しながら敵の様子をうかがう。しかし、物陰から覗いたりはしない。敵も俺達が追ってくるのは想定しているはずだ。いつ見つかってもおかしくない。

 俺達の動きを一番見ているのは、今までの傾向からスナイパーと思っていいだろう。今臼井と一条と交戦している3人の敵も、同じく片手間に俺達が来たかどうかをうかがっている。それは仕方がない。重要なのは見つかるタイミングだ。

 俺達がどの位置にいるかを悟られなければ、敵も発砲するタイミングを失う。

 障害物などで阻まれていては撃っても当たらないし、銃の飛距離にも限界がある。目の前の敵である臼井と一条を早く倒し、俺と北原に追い込みをかけるか。

 俺と北原が射程範囲に入ったら俺と北原の動きを封じ、これ以上近づかせないようにして地道に敵を殲滅させるか。

 臼井は簡単にやられてはくれないことを前提に踏まえると、後者を取る可能性が高い。敵が危険だと感じる距離に俺が近づけば、向こうも焦るはずだ。

 そうなれば、敵は下がるか、俺から先に仕留めなければと思う。精神的な焦りから不用心な行動を取る。そこを突くこと。それが臼井達が考えた作戦なのかもしれない。かなりギャンブルっぽい作戦だが、選んでいる状況じゃないか。


 J地点まで来た。敵が動いていなければ目標まで大体15から20メートル。ハンドガンの射程距離にはもう入っている。敵の射撃音と衣擦れの音に耳を傾け、素早く物陰に移動していく。

 H地点。あと5メートル。G地点とF地点の人間にはまだ気づかれていない。もう敵と味方の弾が飛び交っている様子も見えていた。撃ってもいい状況だ。問題は撃てる隙間があるか。

 フィールドの左側で撃っている臼井と一条の姿が見える。俺はその姿に視線を奪われた。臼井の撃っている姿は激しく俺の動揺を誘い、胸の内に秘めたデキモノが疼く。すると、小さな弾が俺の頬をぶった。

 床を転がる6ミリのバイオ弾が俺の目に入る。痛みの残った頬を拭い、銃をホルスターに差し込んだ。

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