six bullets 探り合う

 俺達は銃口を下に向けながら前進していく。

「椎堂くんはサイド寄りに。滝本さんはサイドと中央にできるだけポジションを取って」

「「了解」」

 俺と滝本さんは臼井さんの指示通りに動く。前方に雑然と置かれた物の配置を確認し、敵が左右中央どこから来るのかを把握しようとする。

「滝本さん。待て」

「はい」


 滝本さんと俺はしゃがんで物陰に隠れる。前方の右サイドに小さな階段があり、上り切ると1メートルくらいの高さになるだろう。

 鉄の棒で骨組みを作り、ベニヤ板やレンガで作った簡素な階段だ。上から見れば見渡しやすいが、逆に自分の位置を知らせることになる。敵もそこに人が来るというのを想定しているはずだ。

「どうしたんですか? 椎堂さん」

 滝本さんの不安そうな声がインカムから聞こえてくる。左にいるであろう滝本さんの姿は柱が邪魔で見えない。柱もまた室内の退廃的な演出のためにラクガキされている。

「いや、ちょっと段差のある場所について考えていた」

「ああ、あの少し突き出してる場所ですか」

 児島の位置からも見えたようだ。

「あの位置には寄らない方がいいだろう。敵が待ち構えているかもしれない」

「ってことは、左からの射撃がありそうね。ハンドガンなら25メートル付近、サブマシンガンなら最大40メートル程度ってところかしら」

 臼井さんが敵の位置を推測する。

「でも、あえてあの場所に現れるのもいいわね」

「え」

 臼井さんの言葉に俺は固まる。

「撒き餌ですか?」

「一条くん正解」

 ということは……。

「お願いね。椎堂くん」

「……了解」


 俺は行動に移す。俺は素早く移動する。

 すると、BB弾が物に当たる音が聞こえてくる。俺は階段に辿り着き、階段を背にして身を隠す。

「敵を確認。O2の木材の入った縦長の台車の後ろにいる。誰か狙える?」

 臼井さんがみんなに問う。俺は隙を見ながら撃ち返す。

「私に任せろ。誰も動くなよ」

 北原さんがやるようだ。

 俺は北原さんが狙いを定めている間、ここで持ちこたえる必要がある。俺が移動してしまえば、敵も移動してしまうかもしれない。そうなると、北原さんは狙いを再調整する必要が出てくる。

 時折、2発か3発ほど射撃音があちこちで鳴っている。戦いは少しずつ激しさを増してきていた。

 俺を狙っている敵が2人に増える。階段の奥の方から敵の1人が狙っているようだ。

 俺は段差に寝そべる。落ちている砂とほぼ変わらない小石が、群青の長袖の服越しに腹を突いた。階段の上に頭が出ないように気をつけながら左側前にいる敵を撃っていく。階段の奥にいる敵は、後ろから児島が威嚇射撃をしてくれるお陰で助かっていた。

「ヒット」

 左側の敵が申告した。敵の1人は両手を挙げて降参のポーズを取る。作戦通りだな。

「俺は一旦下がる」

 俺は身を屈めつつ後方へ退く。


「分かった。児島くんも一旦下がって」

「分かりました」

「一条くんは2人が下がったところを追ってきた敵がいたら狙って」

「了解です」

 俺は鉄の大きなごみ箱を背にして隠れる。

「こちら滝本。M4にいた敵兵の着弾を確認しました」

「それは階段の奥から狙っていた敵か。滝本さん」

「いえ、もっと奥に……あっ」

「どうした?」

 滝本さんから応答がない。これは……。

 サバゲーのルールで一度被弾した者は、ゲーム中の味方との会話は禁止とされている。死んだ人間が会話できないという現実に照らし合わせたルールを作ったのだろう。

「こちら臼井。滝本さんがやられた。私も下がってる」

「何があったんですか?」

 児島は心配そうに問う。

「敵兵が両サイドから同時に攻めてきた。前方中央からの発砲で私達の気を逸らした一瞬の隙に」


 なるほど。敵軍は滝本さん、臼井、一条、北原の4名の位置を推測していた。弾の来る方向を確認した後、情報を共有し、4人の位置を推測。遠方にいるライフルを持った人間が1人だということが分かり、様子を見ていた。

 おそらく、相手側にもスナイパーがいるのだろう。もしくはスコープを装着させた銃を持っている。

 スコープの付いた銃なら敵の位置を確認できる。スナイパーは撃たず、位置情報の報告に徹した。スナイパーの位置、そして、そのサポートにいる一条の居場所と銃を確認。


 そして俺達が後ろに下がった瞬間、前に突出していた滝本さんへ2人で撃ち込んだ。

 スナイパーから死角となる位置取りをしていた敵軍は、スナイパーに警戒する必要はない。臼井の気さえ逸らせばいい。

 同時に射撃が行われたために、滝本さんのサポートに回っている臼井は両サイドのどちらを狙えばいいか分らなかった。もし片方撃ったとしても、その隙に逆サイドから撃たれる。

 そのリスクを臼井は分かっていた。それで逃亡したんだろう。そうするしか方法はなかった。

 情報の取り方が違う。相手チームは相当したたかで、強敵だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る