five bullets 作戦は計画的に

 俺達は着替え、サバゲーの試合場に入った。錆の生えた鉄筋が雑然と積み上げられていたり、無機質な壁に植物が覆っていたりしている。

 ここもペイントスクエアと同じように相手側のいる壁から5メートル間隔で、アルファベットの看板が壁につけられていた。更には左から1から5の看板まで天井にぶら下がっている。

 俺達はスタート地点で弾を詰めていく。ふと北原さんに視線を振った時、手元にある銃身の長い銃が目に入った。

「北原さんの銃って、スナイパーの銃ですよね?」

「ああ、言ってなかったっけ?」

 ってことは、この女があの時のスナイパーだったのか。


「てっきり前衛タイプかと思ってました」

「なんでだよ」

「いや、それは……」

 俺は言い淀む。

「ふっ、当ててやろうか」

 北原さんはほくそ笑む。

「私みたいなガサツそうな女はハンドガンやマシンガンで敵を撃ちまくるのが楽しいと思っていた」

「っ……」

 見透かされた。

「見た目で値踏みすんなよな」

 インカムを装着し、通信に異常がないかそれぞれ確かめ合う。今回は四点180度式小型カメラがないため、被弾した時は自己申告する必要がある。

 全員がニット帽や手袋、スカーフなどの防備を装着する。パッと見て誰が自分のチームか分かりやすくするため、スカーフの色は統一された。俺達のチームは赤だ。

 俺達は作戦を立て始める。制限時間は10分。今回の勝負も殲滅戦だ。

「少し見てきたけど、フィールドは少し入り組んでる。簡単に直進できるところは少ないわ」


 今回のリーダーである臼井さんが話を進める。

「ここは敵のホームグラウンド。相手の方が有利だけど、勝敗を左右するほどじゃないはずよ」

 メンタル面のサポートもするのか。歴戦を積んだ者ができる言葉がけだな。

「最初に2人が前に出て、そのすぐ後ろをつけるように2人。最後に2人。できるだけ同じコースをいかないで。敵にルートを察知されて狙いやすくなる」

「振り分けはどうするんですか?」

 児島が臼井さんに問う。

「まず決まっているのは、後衛の1人は夏希ちゃん。もう1人は夏希ちゃんのサポートに回ることになるわ」

「サポートって何するんですか?」

「スナイパーのサポートは敵が近づいてないかの確認と報告、近距離戦に不向きなスナイパーを敵から護衛すること」

 一条さんが児島の問いに答える。臼井さんは微笑した。

「正解。じゃあ一条君に任せていいかな」

「分かりました」

「後は中衛と前衛だけど、前衛と中衛の距離は5メートルから10メートル以内にしましょう。回り込まれたり、相手が一気に攻めてくる可能性もあるから」

「リーダーは中衛の方がいいでしょう。状況を見渡しやすいですから」

「そうね。じゃあそうさせてもらうわ」


 臼井さんは俺の意見に同意する。

「じゃあ俺が中衛しちゃおうかな」

 児島が申し出る。

「決まりね。児島君と私が中衛、そして前衛は滝本さんと椎堂君。滝本さんはサブマシンガンだから、ある程度の弾幕を張れるわね」

 臼井さんは滝本さんの持つ銃を見ながら笑みを浮かべる。ハンドガンと違って重厚そうな見た目が印象的だ。だが、初心者には向いているので意外と扱いやすい。弾は真っすぐ飛びやすく、飛距離もハンドガンより出る。

「でも、PTスタンKは反動もあるのに使ってるんですか?」

 一条さんと同じことを俺も思っていた。

「反動があるほうが撃ってるって感じるし、トリガーの引き感もキレが良くて好きなんです」

 滝本さんはちょっと嬉しそうに話した。

「なるほど。感覚重視か」

「それに反動は構え方を工夫すれば抑えられますから」

「欠点という意味で言ったら、北原さんのは扱いにくいと思いますけどね」

「ああ」


 ショルダーベルト付きのライフルを背中に回した北原さんは、怪訝けげんな様子で俺を見てくる。

「そうですね。屋外ならまだしも、近距離戦が多い屋内では不向きの銃ですね」

 一条さんとは話が合いそうだ。俺は一条さんにちょっとだけ親近感を覚える。

「私はスナイパーじゃなきゃ楽しめないんだよ」

 北原さんは指で銃を作って、人差し指を俺に向ける。

「一撃必殺。それが私のやり方」

 北原さんは手を下ろして微笑む。

「屋内だろうが私はスナイパーでプレイする。それ以外はやりたくないんだよ」

「北原さんカッコいいです」

 滝本さんが惚れ惚れとした表情で言う。

「ふふ、ありがとさん」

 大人しそうな滝本さんと最初に仲良くなるのが怖そうな北原さんとは……本当に人は見かけによらない。

「あ、でも……」

「ん?」

「えっと、それ……」

 滝本さんはおずおずと北原さんの腰と脚のホルスターに入れられた銃を指差す。

「ああ、実践となるとやむを得ない場合もあるからな。緊急時には距離を取るのにハンドガンも使うんだ」

 2丁のハンドガンとライフル。結構重荷を背負っているな。それであの機動力か。大したもんだ。


「それじゃ、最後の確認だけど、前衛は敵を翻弄させるため、できるだけ多くの弾を撃って。敵を動けなくして、スナイパーと私達、中衛で敵を仕留める。これが私達の作戦よ」

 俺達は首肯する。

「両チーム。開始まであと1分です。準備してください」

 室内にアナウンスが流れる。

「じゃみんな、頑張りましょ!」

 俺達は頷き、各位置につく。

 チームの人間の位置をお互いに確認する。

「5秒前、4、3、2、1、スタート!」

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