four bullets 新メンバー招集

 後日、俺はペイントスクエアで会った臼井さんと北原さんに児島を推薦した。臼井さんの表情は浮かなかったが、渋々承認された。

 申請期限まで残り2ヶ月とちょっと。選り好みしていられないのだろう。

 仲間集めは臼井さん達の方にも収穫はあったようだ。2人ほど大会に参加してくれる人がいたらしい。そこで、大会に向けて連携を深めるため、今度顔合わせと軽い練習を行うとのことだ。場所はまた連絡するからと言われ、児島の連絡先を教えておいた。


 しかし、なぜか俺まで借り出される。公式試合の出場選手は6人と決まっている。ちょうど1人空いた穴を俺が緊急で埋めてほしいと頼まれてしまう。

 本当は断りたかったが、衆人監視に晒されたセーフティエリアで土下座と体育会系の大きな声を発する臼井さんと北原さんに押し切られ、はかられたと思った時にはもう選択肢は残っていなかった。

 時間調整のため、俺達は臼井さんに連絡する。そして、最初の練習日が決定した。


 俺と児島は千葉から俺の車で3時間走らせ、駐車場に入る。

 群馬県にある施設だった。だがペイントシューター施設ではない。サバゲー施設だ。銃はサバゲー用の銃を用意するよう言われていた。インカムは調達してくれるらしいが、どうやって調達する気なんだろうか。


 車を駐車場に止め、施設の受付に向かう。ウッドハウスのような建物の中に入る。すぐに木のテーブルを囲んでくつろいでいた臼井さん達を見つけた。

「臼井さーん」

 早速見つけた児島が臼井さんを呼ぶ。

「お、来たね来たね」

 何だか臼井さんのテンションがいつもより高い気がする。俺は疑問に思いながらも無言で手を挙げて近づく。北原さん、そして知らない顔が2つ。おそらく彼等が新しい仲間だろう。大分若いな。

「ごめんね。こんな遠くまで来させちゃって」

「いえいえ、みなさんのお力になれるよう、児島誠司郎、頑張らせていただきます」

 児島は選挙にでも出るような意気込みを言う。

「じゃあついでに紹介を済ませちゃうね。彼が今回仲間になってくれる一条悠いちじょうゆうさん」

「一条悠です。ペイントシューターの関東大会に出られる機会がこんな形で巡ってきたのは、僕にとってまたとないチャンスと言わざるを得ませんでした。できる限り頑張らせていただきます」

 眼鏡をかけた男性で清潔感漂う印象だ。幼い顔立ちだが、知的なイメージは眼鏡だけのせいじゃない。口調も落ち着いている。

「まだ大学生なんだけど、ペイントシューターの腕前は抜群。私が見出した秘蔵っ子です」

 臼井さんは一条さんと肩を組む。その様子を見ていた児島から嫉妬が滲み出ていた。


「それで、こちらが滝本セイラさん」

 ハーフだろうか。外国人独特の目鼻立ちがくっきりしている顔をしている。

「滝本セイラです。ペイントシューター仲間ができて嬉しいです」

 ちょっと緊張している。だが日本語は思ったよりも上手い。大方日本で暮らしていた期間が長いパターンだろう。

「彼女の射撃の再現性はピカイチ。私達の強力な戦力になってくれるはずよ」

 滝本さんは持ち上げられて少し恥ずかしそうだった。


「関東大会では試合で6人が必ず出ることになるから、今日はピンチヒッターとして、ペイントシューター仲間の椎堂さんに来てもらいましたあ!」

「椎堂辰人です。児島の付き添いみたいな感じで来ました」

「ちょっと椎堂さん。それじゃ俺だけ保護者同伴みたいじゃないですか」

「実際そうだろ」

 みんなが笑う。少し緊張が解けただろうか。意図したわけではなかったが、いい雰囲気だ。

「彼はペイントシューターの腕前も凄いから、何かアドバイスが欲しかったら彼に遠慮なく聞いて。じゃ、受付を済ませてくるわね。みんなは少しくつろいでて」

 臼井さんはそう言って受付へと足を運ぶ。

「じゃあ座りましょうか」

 俺達は北原さんのいるテーブルに近づき、適当な席に座る。


「一条君はどこの大学に行ってるの?」

 早速児島が質問する。

東御とうみ大学です」

「有名大学ですね」

 児島は一条さんのプロフィールに小さく感嘆する。

「滝本さんは社会人?」

 児島は次に滝本さんに質問を振る。

「はい。会社の受付をしてます」

「滝本さんみたいな受付の人がいたら毎日通っちゃうよ~」

 迷惑な奴だ。

 俺は児島の発言に呆れる。

「おふたりともペイントシューター歴は長いんですか?」

 一条さんが聞いてくる。

「いえ、俺はまだ5ヶ月くらいです」

「そうなんですか。椎堂さんは?」

「12年くらいです」

「凄いです」

「いえ、長いだけなので」

「どうやって知り合ったんですか?」

 児島は北原さんに振る。

「普通にペイントシューター施設にいたところを捕獲した」

「捕獲って……」

 完全に狩りの発想だ。


「みんな、受付が終了したから早速準備して」

 臼井さんが俺達のテーブルに近づいてくる。

「サバゲーをするのは分かるんですけど、ここで何するんですか?」

 児島は詳細を問う。

「もちろん実践よ」

「実践ってことは試合をするんですよね。どこと戦うんですか?」

 一条さんも詳細を聞いてないようだ。

「ここのスタッフの人達にお願いして、対戦相手を用意してもらいました」

「そんなことも聞いてくれるんですね」

「まあ、知り合いだからってのもあるんだけどね」

 臼井は得意げに語る。

「さ、準備しようぜぇ」

 北原さんの促しで俺達は移動する。

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