three bullets モテたいガンマン

 休日、俺は自宅で過ごしていた。何もせず、だらだらと一日を過ごすのも休んでいるという点においてはいいと思うが、そんな休日ばかりではさすがに退屈だ。アウトドアと言うには黒寄りのグレーだが、ペイントシューターがアウトドア系の趣味とするならば、俺のインドアの趣味は料理だ。


 本や雑誌、テレビ、ネット上に紹介されていた料理をやってみたり、経験から得た料理の知識を応用してアレンジ料理を作ってみたりするのが結構好きだったりする。

 自宅や友達の家で友達に振る舞うのも割と好きだと思う。やはり他人から自分の作った料理が美味しいと言われるのは独特の嬉しさがある。趣味的という意味で言うのならば、ペイントシューターより料理の方が近いのかもしれない。


 今日はさんまの香味焼きを作っている。ただ淡々と料理をしているわけではない。

 先日、また臼井さんと北原さんに会い、頼まれた仲間集めも進行させていた。口約束とはいえ、無下にするのも後ろめたかった。だが、俺のペイントシューター仲間の輪は狭い。

 二桁もいかないだろう。とりあえず頼めそうな人にメールで一斉送信している。そして、待っている間料理をして過ごしているという1日を送っていた。

 香味焼きが完成。昼食にしては少し遅い時間となってしまったが、ゆっくりと流れる時間を堪能してこそ休みとも言えるだろう。

 ご飯とインスタントの味噌汁、そしてお茶をローテーブルに置いて食事の準備は整った。いただきますの前に携帯をチェックする。

 メールは1通も帰ってきてない。俺からメールするなんてことは滅多にないから当然だろう。

 また内容も簡単に決断できるものでもない。俺の立場を客観的に言えば、厄介ごとを他人に押しつけているようなものだ。返信が来なかったからといって、俺が怒るのは筋違い。ま、来なかったら来なかったで他をあたるしかない。俺は携帯をソファに置き、昼食を開始させた。



 数日経って、またいつものようにペイントスクエアに足を運んだ。やっと忙しさが落ち着き、週2でペイントシューターをする習慣が戻ってきた。

 試射をし終えて、セーフティエリアに向かう。

 視界にセーフティエリアの中の様子が入ってくる。今日はいつもより客がいない。セーフティエリアの壁際の席にいる児島を見かけた。俺は児島へ近づいていく。

「いたのか」

「あ、椎堂さん」

 俺は児島の隣に座る。

「いつからいたんだ?」

「30分前くらいですかね」

「そうだったのか」

「椎堂さん! 俺、決めたんですよ!」

 児島は突然握り締めた拳を胸元まで上げ、宣言する。

「何を?」

「俺、試合を何度もして、上手くなろうと思うんです!」

 児島は真剣な表情をしていた。意気込んでいる児島に目を奪われる。

「上手くなって、モテたいと思います!」

「真剣に聞こうとした俺がバカだった」

「ええっ、なんでえ?」

 児島は俺の反応に戸惑う。


「どうしたんだ急に」

「急じゃないですよ。俺がペイントシューターをしている目的はモテたい。それと、上手くなりたいです!」

「上手くなってモテたい。つまり、上手くなるのは手段であり、最終目標はモテたい、だろ」

「そんな呆れないでくださいよー」

「呆れてないよ」

「絶対呆れてるじゃないですかぁ」

 児島は不満そうに眉尻を下げる。

「俺、木島さんに言われた通り実践に強いタイプだと思うんですよ。試合やりまくって、上手くなってやりたいと思います」

「そうか」

 俺の口から思わずため息が零れた。

 その時、ふと思いついた。こいつを推薦してもいいんじゃないか。決して大会に出ても勝てる実力を持ってるわけじゃないが、磨けばそれなりにはなるだろう。

「そんなお前にとっておきの情報を提供してやろうか?」

「え、なんですか?」

 児島は体の正面を半分こちらに向けて食いついてきた。

「実は、臼井さんと北原さんが関東大会に出るために仲間を集めてる。それで、その仲間集めに協力しているところなんだ」

「関東大会。さすが、本格的ですね」

「今人員が不足しているらしい。お前さえ良かったら、俺が推薦してやる」

「マジですか!」

 児島は予想通り乗ってきた。

「やっぱり椎堂さんも出たかったんですね~!! やりますっ! 一緒に頑張りましょう!」

「いや、出るのはお前だけだ」

「へ?」

 児島は固まる。どうやら勘違いされたらしい。


「俺は出ない。俺は仲間集めに協力するだけだ」

「ええっ、出ないんですか椎堂さん?」

「俺は仕事もあるし、モテたくてペイントシューターをやってるわけじゃない」

「俺はまだしも、椎堂さんならきっと即戦力なのに……」

 児島は子犬のような表情で見つめてくる。

「俺はもう断って、臼井さん達にも同意してもらってる」

「そんな……」

「試合くらいは観に行ってやる」

 俺は寂しそうに迫る児島の表情に耐えられなくなって、つい口にしてしまった。それを自覚した時、平静を装ってつぎ足す。


「もしお前が入ってくれれば、臼井さん達も喜ぶんじゃないか?」

「どうですかね。臼井さんはともかく、北原さんは微妙だなぁ」

「北原さんは見た目が怖いだけだ。いい人でなければ、臼井さんと関東大会に向けて組むわけないだろ」

「それもそうか。分かりました。やってみます」

 どうやらやる気になったようだ。

「じゃあ伝えておく。頑張れよ」

「はい、必ず女の子とお近づきになってみせます!」

 意気込みは十分だが、本当に大丈夫だろうか。

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