two bullets 勧誘
「はあ……」
一気に疲れた。久しぶりの趣味の時間を台無しにされた気分だ。
「あ、椎堂さん!」
次は臼井さんと北原さんがやってきた。野次馬から解放されたらしい。
「ちょうど良かった。話があるんだけど、時間いいですか?」
「はい」
「ジュースでも買ってくるから、話進めといて」
「私オレンジジュースね」
「はいはい」
北原さんは飲み物を買いに行くらしい。臼井さんは俺の前に座る。
「あのお願いがあってー」
臼井さんが早速話に入る。俺は何をお願いされるのかと少し身構えた。まだ2回しか会ってない人にお願いをしてくることは限られるが、必ずしもその予想が当たるわけじゃない。
「私達、6月に開かれるペイントシューターの関東大会に出場したいの。それで、今仲間を集めてるところなんだけど、良かったら一緒に出てくれない?」
ほら来た。めんどくさいお願いが。
「悪いけど、そういう話ならお断りします。仕事もあるし、大会に出たって足手まといになりますから」
「ええ~やってくださいよ椎堂さーん」
臼井さんは子供のように唇を尖らせる。
「俺なんかよりもっと上手い奴はいます。遠藤さんとか、木島さんとか」
「あの2人は確かに上手かったけど、大会に出ても戦術でスタミナ切れを狙われたら終わりなんですよ」
「他にいないのか?」
「当てのあった強そうな人達はもう来年の関東大会のためのチームを組んで練習してたり、厳格で大きな大会よりも楽しさ重視の小規模な大会の方がいいっていう人が大半なんですよ」
「だから言ったろ。今から来年の関東大会のチームを探すなんて無理だって」
北原さんが戻ってきた。北原さんは臼井さんの前に紙コップを置く。
「出るだけなら寄せ集めでいいだろ」
北原さんは淡々と適当に話す。
「私は嫌。どうせ出るならベストメンバーでやりたいのー!」
臼井さんは駄々をこね始めた。
「じゃあ夏希ちゃんは、3分待つカップラーメンをあえて2分30秒で開けて食べてみたら美味しいと発見したとして、次から2分30秒で開けられなかったらへこまないの?」
どういう例えなんだ。
「だったら再来年に回せばいいだろ」
「私はもう来年の予定を立ててしまってるんだよ! 変更は利かないの!」
「あと何人集めなきゃいけないんですか?」
「最低でもあと4人。ベストはサブメンバーも含めて6人だな」
北原さんはバナナジュースを飲む。
「今確定しているのは何人ですか?」
「私と夏希ちゃんだけです」
臼井さんは無邪気な笑顔で指を2本立てる。
「大会申請期限は?」
やる気を削がれつつ尋ねる。
「3ヶ月後だな」
「ならまだたっぷり時間はあるじゃないですか。他を当たった方が賢明ですよ」
「私も同意見」
北原さんが俺に同調する。たぶんこの人も乗り気じゃないのだろう。
「うぅ……夏希ちゃんが冷たい」
臼井さんは芝居くさく落胆してみせる。
「俺が仲間になることはできませんが、仲間集めは協力しますよ」
「椎堂もそう言ってくれてるし、今日はこれでよしとしようぜ、未生」
「は~い……」
「聞いてもらってありがとな。椎堂」
北原さんは飲みかけのジュースの入った紙コップを持って席を立った。
「陰ながら応援する」
北原さんは薄く笑みを浮かべた。北原さんが笑ったところを初めてみたかもしれない。
「ほら、行くぞ。未生」
臼井さんは拗ねた様子で立ち上がった。北原さんと臼井さんは更衣室に向かっていく。臼井さんは猫背になりながらフラフラと歩いている。
あんなにがっかり感を出さなくてもいいだろうに。俺は少しの後ろめたさを感じながらコーヒーを飲み干した。
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