GAME2
one bullet 苦手なストレンジャー
1ヶ月後、本格的に秋の雰囲気が日本を纏っていた。俺は毎週2回ほどペイントスクエアを利用していたが、そのリズムが崩れ始めている。
負けたのがショックだったわけじゃない。最近残業続きでコンスタントに通える体力が残っていなかった。ただそれだけだ。
俺は2週間ぶりにペイントスクエアに足を運ぶことにした。俺はエレベーターから降りる。いつもの簡素なセーフティエリアが目に入ってくる。2週間しか空いていないのに妙に新鮮さを覚えた。
その現象の1つがモニターの前に集まった野次馬だ。普段は4、5人が集まっているような場所に、今日は20人くらいの観覧者がいる。さすがに気になって観覧者達の後ろでモニターに注目する。
フラッグ戦が行われているようだ。画面の右上部にチーム名が表示されている。
エヴァンス。1ヵ月前に戦った女性チームだ。
観覧者達は食い入るようにずっとモニターに夢中で、携帯を手にしている者は1人もいない。
観覧者達の声が聞こえてくる。
「あの2人凄いな」
「ああ、ずっと負けなしっていうのも頷ける」
感嘆とする声が、今も凄いパフォーマンスを見せてくれている彼女達にしみじみとエールを送っているようだった。
「さすがレビットパークの覇者」
施設利用者の女性は憧れを込めて称える。
「え、あのレビットパークの覇者が彼女達なのか?」
「レビットパークじゃ、あの2人が来店すると取り合いが起こるらしい」
「レビットパークではほとんどのプレイヤーがあの2人の強さを知ってるから、対戦チームは試合する前からやる気が失せちまうだろうな」
「酷い話じゃ、あの2人が入ったチームとランダムで当たったら棄権するチームもあるらしいよ」
モニターの音がかき消されないように小さな声で噂話に花を咲かせている。この施設のスタッフまで話に加わるほど、彼女達の注目度は高くなっていた。
「レベルが違い過ぎたら楽しくなくなるのも無理ねぇよ」
レビットパーク、聞いたことがある。埼玉県内で有名なペイントシューター施設。関東の中でもプレイヤーのレベルが高いと噂の施設だ。そこの覇者……。つまり、俺以上に強いプレイヤーだったわけか。なるほど。どうりで負けるわけだ。
俺は心の中で納得してモニターから離れた。
更衣室で着替えを済ませ、セーフティエリアへ再び戻ってきた。
2人の女性が色んな人に囲まれている。臼井さんと北原さんだ。すっかり有名人だな。これで俺への対戦の申し込みが減るなら助かる。
俺は紙コップ飲料の自動販売機に向かう。
「嫉妬しちゃうかい? ここのナンバーワンプレイヤーとしては」
ねっとりとした喋り口調が隣から聞こえてきた。人の内側へ入り込んで、反応を面白がる陰湿な男だ。
「嫉妬なんて俺がする必要はどこにもない」
俺は硬貨を入れてボタンを押す。長い茶髪はパーマがかかっており、クイっと上がった唇の端にカールした毛先が触れている。
「ふふっ、本当は
俺は温かいブラックコーヒーをカップの取り出し口から取る。
「お前は暇なのか?」
「そうなんだよ、めちゃくちゃ暇でさ~。だから椎堂ちゃんとおしゃべりして暇を潰そうかなぁって」
男はわざとらしくしょんぼりした顔で肩をすくめる。
俺は気だるげに野次馬から離れた席に腰を下ろす。
男も紙コップの自動販売機で何か買ったようで、手に紙コップを持っている。しかもこちらへ来ている。どうやらまだあいつと話さないといけないらしい。
俺の前に座ったこの男は
「俺はあんたに会えなくて寂しかったよ。ここ2週間顔出してないんだって?」
加納は薄く笑みを含みながら聞いてくる。
「仕事が忙しかったんだ」
「有給は残ってなかったのかい? 仕事も大事だけど、休むことも大事だよ」
なんなんだ。俺はこいつと付き合ってるのか。
俺は冷めた目で加納を見る。
「お前こそ、嫉妬してるんじゃないのか?」
「俺が?」
加納は
「さっきの話だ。あの子達に注目が集まって、自分の注目度が下がると思ってるんじゃないか?」
加納は嘲笑した。
「そんなことないよ。単調な注目はいずれ飽きられていく。変化こそ俺にとってはチャンスだよ。ライバルが現れ、俺があの子達を屈服させれば、俺の注目はますます高くなる」
「なるほど」
「だから、椎堂ちゃんも落ち込むことないよ」
「落ち込んでない」
「ふふふふ、そうかい。じゃ、俺は帰るよ。また試合しようね、椎堂ちゃん」
加納は席から立ち上がり、紙コップをごみ箱に捨てて去って行った。
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