five bullets 懐古の銃声

 臼井さんと北原さんは俺達と団らんした後、先に帰った。

 俺達も少ししてから施設を出る。施設の前で帰る方向の違う木島さんと遠藤さんと別れ、俺と同じくスーツ姿に着替えた児島と夜道を歩く。

 まだまだ賑わいを見せる通りは、建物とビルの中に入っているお店の蛍光看板や広告板を照らすライトで華やいでいる。


「はあ……」

 児島はため息を零した。

「これは脈なしかな」

「そんなに落ち込むことないだろ」

「余裕のセリフですね」

 児島が睨んでくる。

「なんだ?」

 そんな顔をされる覚えはないと眉をひそめる。

「やっぱ強い人は、いつの時代もモテますよねぇ」

「モテているとは思えないがな。ただ単に、俺の噂を聞いて興味があったんだろう。試合をしてみたいってな。だから、初めてこの施設に来て、俺が来るのを待ち、よくチームを組んでいた遠藤さんに声をかけたってとこじゃないか」

「待ってたって……それじゃますます脈ありじゃないですか。ずっと待ってたんでしょ。僕の時と椎堂さんの時の反応、明らかに違うし、握手まで……」

 児島はどんどん沈んでいく。

「考え過ぎじゃないか? 腕が上がると分かると思うけど、自分より強い相手と戦ってみたいと思うのは男性であろうが女性であろうが関係ない。自分がどれだけやれるのか試したくなるんだ。大会に出てる人間ならなおさらだ」

「大会?」

 児島は怪訝けげんな表情で問う。


「知らなくても無理はない。テレビやネットで取り上げられることは少ないからな」

「大会って、全国大会とかですか?」

「ああ。全国大会や世界大会。様々な規模の大会が開かれてる。他国ではもうスポーツ競技として採用されている」

「え、じゃあ、椎堂さんも大会に出るんですか?」

 児島が飛躍した発言をし出す。

「俺は施設の小さな大会で十分だ。本格的な大会に出たって、俺より強い奴はたくさんいる。出てもトーナメントにも進めないさ」

「そうなんですか」


「おそらく、彼女達は大会出場経験のあるはずだ。まあ、他のスポーツみたいにスポンサーとかがついてプロとかになれるわけじゃないし、コーチもつかないから大会で勝つことは一層厳しいだろうな」

「でも、みんな同じ条件だからあんまり変わんなくないですか?」

「いや、実際はそうでもない。日本国籍を取った外国人が、日本の大会に出て圧倒するなんて例はよくある。大会で勝利することを真剣に考えている日本人は、大概海外に練習拠点を置いている」

「現実は厳しいですね~」

 児島は暗くなった空を見上げる。星が瞬く空はビルの隙間からしか見えない。気温が下がった夜はまだ過ごしやすかった。



 1人暮らしのマンションの一室に入り、シックなソファに腰かけた。黒々としているふかふかのソファの座面が深く沈みこむ。

 質素で物も大してない部屋。以前友達が来た時、つまんねぇという聞いてもいない感想を言われた部屋だ。

 物が煩雑はんざつしているのは落ち着かない。決して綺麗好きというわけではないが、汚いよりはマシだろう。

 そういえば飯がまだだった。今日は適当でいいか。

 俺はソファの背もたれに身を預ける。


 記憶が回帰する瞬間。そんなことをしているのは、こうして天井を見つめてボーっとする時くらいだ。試合中にあのことを思い出すなんて、一度もなかった。


 16年前、俺は初めて銃を握った。銃の構え方や射撃の技術などは、全てあの子に教えてもらった。

 あの子の姿は、今でもなぜか鮮明に覚えている。小学生の頃に出会った人の名前やどういうことがあったかもほとんど覚えていないのに……。


 俺の生まれ育った場所は、田園や畑などのある緑豊かな土地だった。山の裏手にある広場。そこが、俺達のいつもの遊び場だ。

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