four bullets 新しい交流
俺達のチームは負けた。チーム戦は1人が突出した力を持っていても負ける。連携の取れたチームが勝利を掴む。それがペイントシューターだ。
だが、こんなにも敗北感を味わうのは久しぶりだ。控室に入り、ゴーグルを外した。
「悪い椎堂。俺の作戦ミスだ」
遠藤さんは苦笑しながら謝ってくる。深刻になられるより遥かに良かった。
「いえ、敵チームを舐めてかかった俺も悪かったですから」
「あの子達、凄かったね。特に
「え。木島さん、試合中に敵の銃を見てたんですか?」
児島は目を大きく開けて驚いている。
「いや、試合申し込まれた時に見せてもらったんだよ。鑑賞タイプの女の子かと思ってたんだけど、実力も折り紙付きだったね」
「反省会もかねて、セーフティでお茶でも飲んでくつろごうか」
遠藤さんの促しで俺達は控室を出た。
俺達はセーフティエリアの長机の端に固まって席に座る。飲み物をそれぞれ買って、ゆったりと疲れを癒す。
「試合は負けたが、結構スリルあったな。久々に痺れたよ」
遠藤さんは先ほどの試合を楽しそうに振り返る。
「ハラハラしましたね」
ゴーグルを外し、普通の眼鏡をかけ直す木島さんも同調する。
「僕は緊張しっぱなしでしたよ」
児島は安堵のため息を零す。
「でも、児島は1キルしたな」
遠藤さんが児島の健闘を称える。
「いやたまたまですよ~」
まんざらでもないらしい。
「試写室ではターゲットに当たらないで嘆いてたのにな」
「ちょっと言わないでくださいよ椎堂さん!」
「児島君は実践に強いタイプかもしれないね」
「そうですかね」
木島さんに褒められて嬉しそうな児島を微笑ましく見ながらコーヒーを一口含む。
「遠藤さん」
若々しい女性の声が突然入ってきた。俺は無意識にその声の主に視線を振った。金色の長い髪を携えた若い女性がこちらへ近づいてくる。愛想良さげで華奢な体型をしている女性だったが、上下ピンクの迷彩柄の服は俺の目を惹いた。
「あ、先ほどはどうも」
「いえ、こちらこそ、お手合わせありがとうございました」
女性は快活な雰囲気を纏って礼儀正しく会釈する。
「みんなに紹介しとくよ。こちら
「初めまして。臼井未生です。みなさんと試合できて感激です」
「で、まだ紹介してないのは、児島君だったね」
「ど、どうも、初めまして! 児島誠司郎です。よろしくお願いします!」
児島は何だか緊張している。女性慣れしてないはずないんだが。
「よろしくお願いします」
挨拶を交わし終えた後、児島が俺に耳打ちしてくる。
「めっちゃ美人じゃないですか。俺、ペイントシューターやってて良かったって、今初めて思いました」
ああ、そういうことか。
「で、こちらが
「ああ、あなたが椎堂さん」
臼井さんのテンションが上がっている。
「お噂はかねがね聞いてます。この施設のナンバーワンプレイヤーですよね」
「いや、ナンバーワンでは」
「状況判断能力に長けた動きと射撃センスはお見事でした。これからも仲良くしてください」
臼井さんは手を差し出してきた。無邪気な笑顔のこの女性、ピンク色のウェアと金色の長い髪。間違いないだろう。前線に走り込んで来て、フィールドを駆け回っていたプレイヤーだ。そして、俺はこのプレイヤーに撃たれた。
「あ、ああ……」
俺は戸惑いながらも握手する。見た目はそんな動きをするようなタイプには見えないが、いきなりトップスピードを出せる筋力を兼ね備え、あれほど激しく動いている中で標的に当ててきた実力のあるプレイヤーだということは、さっきの一戦ではっきりと感じていた。
「あ、あと私の友達が……あ、おーい夏希ー!」
臼井さんは大声で遠くに手を振る。そのせいで周りの人達の視線が臼井さんに集まっていく。
「うっせぇなぁ。そんな大声で呼ばなくてもいいだろ」
口の悪い言葉を漏らしながら女性が歩いてくる。
「私の友達で、ペイントシューター仲間の
「ちゃんをつけるな」
元ヤンキーだったんじゃないかと思わせるキリッとした目つき、茶髪のボブヘアで毛並みにウェーブをかけている。
「さっき相手してくれた遠藤チームのみなさんで、こちらが椎堂さん」
臼井さんが北原さんにも俺を紹介する。
「へぇー、あんたが椎堂か」
北原さんは俺をじっくり見つめてくる。何かされるんじゃないかと身構えてしまう。
「よろしく」
北原さんは手を差し出してきた。
「あ、ああ、よろしく」
「よろしければ、少し話しませんか?」
遠藤さんは2人を誘う。
「はい是非」
遠藤さんが言うと自然だな。さすがと言ったところか。
臼井さんと北原さんは向かい合って座る。児島は緊張しているようだ。それは美人の女性が隣にいてどぎまぎしているからではない。怖そうな女が隣にいてビクビクしているのだ。まるで子犬だ。
「ここにはよく通ってたんですか?」
遠藤さんが質問する。
「いいえ、ここには初めて来ました」
「でも、ペイントシューター歴は長いんでしょ?」
「そうですね。サバゲーと合わせてかれこれ8年ですかね」
いつも男ばかりで集まっている中に、臼井さんの黄色い声が入ってくる。妙な違和感があって新鮮だった。
「うわ~、先輩だ」
児島は落胆している。どうせ仲良くなれる魂胆が崩れたとかだろう。
「北原さんはどれくらいやってるんですか?」
木島さんは穏和な口調で聞く。
「私は10年です」
北原さんは椅子を引き、机と体とのスペースを大きめに空けている。右膝に左足を乗せ、片足だけあぐらをかいているガサツな座り方をしていた。
「みんな結構長くやってますね」
「みなさんも長そうですよね」
臼井さんは言葉を返す。
「俺はこんなガチガチの装備にこの顔だからね」
遠藤さんは苦笑する。
そうだな。見た目はどう見てもベテランだ。
「椎堂さんは長いでしょ?」
「サバゲーと合わせて12年くらいです」
「ほぼ僕と一緒ですね」
木島さんは嬉しそうにしている。
「僕はまだ3ヶ月です。みなさんに教えてもらいながらやってるところなんです」
児島は肩身を狭くして話す。一番ペイントシューター歴が短いせいだろう。
こうやって控え目な態度でリスペクトしてますアピールでなつかれた。こいつの人の取り入り方なのかもしれない。
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