three bullets 超攻撃型スピードガンマン
試合がもうすぐ始まるため、俺達はフィールドの控室にいた。相手チームの顔ぶれを見ることができなかった児島は、長椅子に腰かけて
俺はゴーグルと小型カメラを着けていく。小型カメラはバンド型になっており、目玉のように少しだけ半球状に飛び出ているのがカメラの位置に当たる。
それを脚と腰、首元、耳につける。カメラは被弾したかどうかを判断するためと、臨場感のある映像をモニターに映すために装着させられる。耳の小型カメラはインカム付きで、チーム同士で通信を行え、情報を共有できる。
俺達はインカムで通信ができるか確かめ合う。
「あー。聞こえる」
「はい。問題ありません」
俺は木島さんの問いに首肯する。
「よし。全員確認できたな。遠藤チーム、インカムの確認取れました」
遠藤さんは試合の舞台となる扉の前にいるスタッフに報告する。
「了解しました」
チームを組む時、必ずリーダーを決め、作戦を話し合う時間が設けられる。
今回のリーダーは遠藤さん。俺と木島さんが前線に出て、後方支援を児島と遠藤さんが受け持つ。エキシビションマッチでここまでする必要はないが、お互いにやり方が体に染みついてるので、どうしても癖でやってしまう。
「両チーム準備できました。では、ご入場ください」
扉の前にいる鍔のある帽子を被ったスタッフが告げる。俺達はフィールドに入った。
奥行きのある大きな部屋に簡素なライトがぽつぽつと飾られている。ライトの中には切れかかっているものまで。こういう演出は雰囲気が出ていい感じにホラーゲームみたくなるから人気が集まるそうだ。
木で作られた壁やドラム缶、積み上げられた段ボール箱などが点々とフィールド内に置かれている。
両サイドの壁の上部には、アルファベットの表示板が奥まで続く。5メートル間隔で並べられているこの表示は、敵の位置や自分の位置を知らせるためのものと言っていい。
室内の両側からそれぞれのチームがスタートする。
どちらかのチームのプレイヤーが全員倒された時、勝敗が決まる殲滅戦だ。一度被弾すれば倒されたとみなされ、試合から退場しなければならない。装備品に被弾しても、倒されたとみなされる。
被弾したかどうかを判断するのは、自己申告とプレイヤーに身につけられた小型カメラだ。自己申告だと本人の自覚に任せられるため、本人が被弾していないと思えばそれまでだ。
公正性を担保するため、四点180度式小型カメラを装着し、上下左右を常時映し、プレイヤーに飛んでくる弾の弾道を認識し、即座に計算。被弾したかどうかをコンピュータが判断。もしコンピュータが被弾したと判断すれば、試合の時のみ身につける番号プレートが被弾したプレイヤーだけ光る。
被弾した場合は映像を観ているスタッフからインカムを通して伝達され、速やかに退場するのがマナーだ。
俺達は弾倉を銃に装填し、安全装置を外した。打ち合わせした位置で試合開始の合図を待つ。
「プレイヤーのみなさん。準備はできましたでしょうか?」
インカムからスタッフの声が聞こえた。
「それでは、遠藤チーム対エヴァンスチームの殲滅戦まで5秒前。4、3、2、1……」
試合開始のサイレンがけたたましく鳴る。
「前衛前進します」
「了解」
俺はリーダーの遠藤さんに確認を取り、木島さんと共に前へ進んだ。コンクリートむき出しの室内に足音が鳴る。銃を下に向け、障害物を縫うように素早く前進する。
奥から足音が聞こえる。俺は高さのある長方形の物陰に隠れた。
「椎堂です。敵が接近中。迎撃態勢に移行します」
「了解」
「木島さんは左をお願いします」
「了解」
俺は顔を覗かせる。足音が無くなった。敵もこちらが近くにいることを察知したらしい。静寂の室内の様子を
「椎堂です。敵の姿、確認できません」
「了解。こちらから威嚇射撃を行う。その隙に移動を。位置を教えてほしい」
「少し時間をください。木島さん。そちらに移動できる場所はありますか?」
「そうだね。土のうの陰に隠れられると思う。あそこなら、前方の木箱の上に乗らないと弾は当たらない。左からも死角になる。ただあの場所に2人で留まるのは危険だ。別行動の方がいいと思う」
その時、弾が俺達の隠れている物陰に飛んできた。弾が木製の箱に叩きつける音が響く。
「こちら遠藤。敵の位置を確認。K中央部にあるドラム缶に1人。こちらが応戦する」
「了解」
俺は木島さんの協議に戻す。
「木島さんが動くと同時に俺も前の積み上げられたパレットに隠れます。遠藤さん。前衛分かれます。I左の土のうの陰に木島さん。I右のパレットの陰に俺です」
「了解。新たにLの右付近から敵の射撃を確認。3秒後に動いてくれ。こちらで隙を作る」
「「了解」」
木島さんと俺は遠藤さんの指示に首肯する。
「3、2、1」
弾が飛び乱れる中、木島さんと俺は移動する。俺は被弾せずパレットの陰に移動できた。
「こちら児島。K地点のドラム缶の辺りにいた敵の被弾を確認」
「了解」
舐めていた。敵チームは女性だけと聞いていたこともあって、先制攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。統制もちゃんとされている。結構本気のチームだな。
未だに2人の敵の位置が確認できない。俺達と同じように前衛と後衛に分かれて戦っているとしたら、後衛に2人いることになる。
「こちら児島。後衛の位置を変えます。G右辺に遠藤さん。H左辺部に児島が移動します」
「了解。僕がL地点の右辺にいる敵に応戦する」
木島さんが申し出る。
「了解」
俺も物陰から覗き、L地点の敵を確認した。一度物陰に隠れ、左側から前を覗く。
その時、部屋の奥から弾が飛んできた。一瞬の洞察から、俺に来ている物ではないことは分かった。弾は木島さんに当たった。木島さんのプレートが光る。木島さんは手を挙げて左端に寄り、後ろへ歩いていく。
木島さんが被弾した。前衛は俺1人。大した問題じゃない。問題は奥から来た弾だ。あれは飛距離的にハンドガンじゃない。スナイパーがいると思っていいだろう。だが、点々と障害物のあるこの場所で、あれほど遠くから狙えるのか。
偶然なのか分からないが、木島さんが腕を出したタイミングに合わせて狙う技術はあると思っていい。
「リーダーから許可をもらいました。児島、前に出ます。椎堂さん、大丈夫ですか?」
「ああ。左辺からの進入は避けろ。スナイパーが狙ってる」
「分かりました」
俺はL地点の右側にいる敵と応戦する。
目測で60センチくらい。積み上げられた木箱の陰に隠れているようだ。隙を
「こちら椎堂。L地点の敵の被弾を確認。前進します」
「了解」
中央部にある木の壁に向かう。その時、人影が室内の左の壁に沿って移動するのが見えた。
低い姿勢のまま銃口を向け、発砲してきた。俺は物陰に飛び込んだ。弾道の死角に入って身を隠そうとするが、俺の姿を捉え、すれ違った敵兵は素早く回り込んで撃ってこようとしていた。
俺はすぐさま右に移動しようとする。
しかし、奥からスナイパーの弾が飛んできた。俺は体を引っ込める。回り込んできた女性の頭が見えた。しゃがんで頭部を隠す。
射撃音の前後ろから聞こえる中、態勢を低くしつつ左側へ大きく移動する。ハンドガンを持った女性は俺をしつこく追いかけ、執拗に撃ってくる。
「チッ」
俺はなんとか狭い物陰に隠れられた。
「こちら椎堂。ハンドガンの敵兵をK地点で確認。現在J地点にいる模様。スナイパーを先に……」
「すまない。児島がやられた」
遠藤さんは少し慌てた様子だった。
「なんだあの子は!? 動きが速い。こちらは任せろ。君はスナイパーを」
「了解」
左側の壁面に沿って移動していく。すると、物陰の右上から銃を構えた人影が見えた。スナイパーの銃口が向いたのを察知し、後ろに
前の左の壁面に弾丸が当たる。後ろの柱に隠れた。俺は弾倉を交換する。
連射してこない。よく狙ってから撃ってくるのか。スナイパーは息を潜めて一発で仕留めていく職人。今回のスナイパーはまさにそのタイプだ。
左側から顔を覗かせて様子を
下がった。どういうことだ……。まさか。
「こちら椎堂! 遠藤さん」
応答がない。やはりそうか。
俺は柱から移動し、段ボール箱の山の陰に身を隠す。
遠藤さんは被弾した。つまり、今生き残っているのは俺だけ。となると、敵チームの取る作戦は1つ。スナイパーが遠方から狙撃。ハンドガンを持った前衛のプレイヤーが注意を引きつつ別方向から発砲。
俺は静寂に耳を傾ける。足音、衣擦れの音。微かに聞こえる。
自チームの開始地点がある方向の左右中央、どの辺りから来るか。目を忙しなく振り、どこかに動きがあるか周りに意識を集中させる。近くで物音がする。
ほんのわずか音だ。左の下隅から銃が覗いた。俺は自チームの攻撃方向とは逆向きに走る。弾が後ろの壁に当たる音がした。足音が追いかけてくる。
俺は走りながら銃口を人影に向ける。トリガーを3回引くが、敵は走る方向を変えて避け、止まって隠れる様子を見せない。追ってくる敵は長い金髪をなびかせ、俺の銃弾を避けて徐々に近づいてくる。
膝上しかない低いレンガの障害物が室内の中央部を完全に塞いでいたのを目視。その奥に縦長の障壁があった。平地は両サイドに1つずつ、幅1メートル分の隙間だけだ。
膝上しかないので越えようと思えば越えられるが、誤って足を引っかける可能性もある。そんなリスクをしょって逃げるのは危険だ。
俺は右サイドを通り、右から左へと横断する。ひっきりなしに飛んでくる弾に当たらないように身を低くして、目的地の縦長の障壁に身を隠し、銃を撃つ。身軽な動きで敵も物陰に隠れた。
俺は荒く息をする。試合前は本気で逃げると思ってなかった。リスクを冒してどんどん攻めてくる。完全に俺が敵の術中にハマっている。俺が後手後手に回るように……。
右側で人影が見えた。俺は素早く銃を構えて撃つ。2つの射撃音が微かに鳴った。
俺は固まる。
敵の姿を捉えた瞬間、長く俺の中に留まる物が震え、弾丸が胸を撃ち抜いた。
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