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美緒が渡瀬と肩を並べて帰ったから、ホッとしたのも束の間、昇降口で奥寺に捕まってしまった。



1年の文化祭で告られて断ったのに、それからも懲りずに追いかけてくるタフな女子。



結構美人で、校内でも人気があるらしい。告って撃沈したヤツもちらほらいるのは知ってる。



そんな高嶺の花子さんがなんで俺みたいな男にこだわるんだかわからない。人に自分の理想を詰め込まないでほしい。



でも突き放しても何度でもやってくる根性がすごすぎて、最近はちょっと大人っぽい彼女の雰囲気に押されぎみでもあった。


宮辺みやべ君、傘持ってないんだ」


どこか不敵な笑み。その手には縁にレースっぽい細工の付いたネイビーの傘を持っている。


「だったら何?」


言っといて態度わる、と自覚する。

でも奥寺には耐性があるからこれくらいはジャブだろ。


「一緒に帰ろう?とか言わないよ」

「は?」


何今の?日本語?


「送ってよ」

「なんで?」


頭のいい奴って、ていうか女子って言うことが基本意味不明。


「だから、送ってって言ってるの」

「……ないわ」


はっきり断ったはずが、その声は雨音にかき消された。


「今何か言った?」

「俺たち絶対気あわないわって言った」


本気でそう言ったのに奥寺は余裕ありげに笑ってみせた。


「こういうの憧れだったんだよね」

「……憧れとか重いって」


ほら、性格最悪ですよ俺。


「じゃあこれで最後。他は諦めるよ、いろいろ」


にこやかに普通そんなこと言う?

直球すぎて不覚にもドキッとした。


「まぁいいけど……」

「うん、それ以上は別に何も望んでないから」


大人びた発言にいちいち動揺してることを気づかれないようにしないと。


気持ちは嬉しい。

けど追いかけられるのは苦手だ。

美緒にもやたらと追い回されてきたし、案外それがトラウマになってたりして。

でもあいつの場合はいつまでも追い付けないのが笑えるからいいんだけど。


あーあ。

女の子ってやっぱ苦手。

こんなことになるなら、美緒と濡れて帰った方がよかった。


「じゃあ、はい」


ぼんやりしてたらものすごく自然に傘を渡された。


「なんで俺?」

「送ってくれる人が持つよね、普通」

「そんな決まりあった?」

「宮辺君て成績はいいのにそういうの疎いよね」


ちょっとカチン。無言で傘を受け取った。


「ふふっ」


なに嬉しそうに笑ってんだよ。

てかこの状況、何?


姉ちゃんがハマって読んでた少女漫画にこういうシーンがあったような。

昔、無理矢理読まされたことを思い出した。


麻生あそう君と相合い傘したすぎ〜!」って悶えてたあれだ。

ちなみに麻生っていうのは姉貴の大好物の2次元イケメンなんだけど。


奥寺もそういうのが理想?

理想の宮辺君像があるのなら、期待には応えられないよ?

傘を開いて、咳払いをしてから歩きだした。


「濡れちゃうよ、傘に入ってないし」

「なんでもいいじゃん、送るだけだろ」


女の子を濡らさないために男が傘を傾けるのが王道っていうのなら、俺は傘の水平保持に努めるまで。


腕をまっすぐ伸ばせば無意味に寄り添わなくてもいいし、どうせ濡れて帰るつもりだったし。ついでにちょっと猫背で身長もごまかせ。

なんかいろいろ面倒な上にものすごく不自然だけど、たぶんこれでいい。


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