第366話 クラウディアの想い

「【漆黒の矢】はクレンツ王国の現体制に不満を持つ者たちで構成された、いわゆる反乱軍と呼ばれる連中だ」

「は、反乱軍?」

 

 驚いた。

 クレンツ王国ってずっと平和だったから、反乱なんて起きないものだとばかり思っていたんだけど……中には不満を抱いている人たちもいたのか。


 ――ただ、どうも事情があるようだ。


「ただ、反乱軍と呼ばれる連中が活動をしていたのは今から五十年近く前だ。その時に代替わりした国王がそれまでの政治を見直し、そこから長い年月を経て今の平和な国へと生まれ変わったのだ」

「でしたら、なぜ今でも残党が活動を?」


 疑問を抱くシャーロットだが、それはきっとさっきミレーヌさんが言っていた。


「残党は国王陛下を中心とする政治に不満があるわけじゃなく、自分たちが裕福な暮らしをしたいから集団で暴れ回っているだけじゃないのかな」

「それではただの犯罪者集団ですわ!」

「シャーロットの言う通りだ。ちなみに君たちが過去に何度か戦った霧の魔女も在籍していたことがある」


 本格的にヤバい連中だってことか。

 でも、ミレーヌさんはもう抜けたって言っていたよな。


「そうよ。だから私は抜けてきたの。新しい生活をするために……」


 ミレーヌさんは思い詰めた表情で語る。


 なるほど。


 彼女には壮絶な過去があった――というのは理解できたけど、そこからどうしてクラウディアさんがメイドを辞めなくちゃいけないって話につながるんだ?


「新しい生活をするというなら、ドリーセンの町で暮らしたらいいのでは?」


 張りつめた空気の中で、マルティナがキョトンとした表情を浮かべながら語る。他のみんなも同じことを思ったらしく、うんうんと頷いていた。


 実は俺もそう考えたんだよな。

 ただここで問題になってくるのは……クラウディアさんとブラファー家の関係だ。


「血のつながりがなくても、この子は私にとって妹も同然……その妹が、今はもう関係がなくなったとはいえ反乱軍であった【漆黒の矢】のメンバーとなれば、お仕えしているブラファー家に悪評が立つ恐れがあります」


 クラウディアさんはそれを懸念して自らブラファー家を離れたのか。


 分からなくもないけど、ちょっと考えすぎじゃないかなとは思う。しかし、貴族の世界は一般の世界とだいぶ認識が異なるから、これが原因で一気に没落していく可能性もあるってことなのかな。


 ブラファー家に仕えて長いクラウディアさんがそう判断したのだからきっとそうなのだろう。

 ――って、そんな理由で納得できるわけがないよな。


「関係ありませんわ!」


 ここへ来てシャーロットが腹の底から叫び声をあげる。

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