第360話 村の異変
クラウディアさんが生まれた村へとやってきた俺たちに降り注ぐ冷ややかな視線。
きっかけはシャーロットによる「クラウディアさんがブラファー家で自分の専属メイドをしている」というものだった。
そこで俺はハッと気づく。
確か、クラウディアさんの母親は駆け落ち同然の状況でこの村へと帰ってきた。その発端となったのはブラファー家の先代当主による縁談――つまり、この村の人たちにとって、ブラファー家とはクラウディアさんに臨まぬ結婚を強制しようとした悪党に映っているかもしれないのだ。
露骨に雰囲気の変わった村人たちにシャーロットをはじめみんなが怯んでいる中、俺は一歩前に出て真意を確認しようとする。
だが、それよりも先にギーエンさんが語り始めた。
「ブラファー家で何があったかは聞いている――が、君たちに対しては例外だ」
「例外?」
「あの子は今のブラファー家に感謝していると言っていた」
「っ! じゃ、じゃあ、ここへ来たんですね!」
俺が尋ねると、ギーエンさんは静かに頷いた。
この状況に黙っていられないのはローレンスさんだろう。
最後尾で腕を組みながら静観していたが、ついに俺を押しのけて最前線へと立つ。
「クラウディアはどこにいる?」
「……あんたがローレンス・ブラファーか」
「俺の名を知っているのか?」
「クラウディアからブラファー家の兄妹について何度も話を聞かされたからな」
やはり付き合いが長い分、語る内容の多くはシャーロットとローレンスの兄妹に関することが多かったようだ。
いつものローレンスさんなら、ここで強硬な姿勢を見せてクラウディアさんの居場所を問い詰めるのだろうが、今日ばかりは違っていた。
「頼む……教えてくれ。彼女は今どこにいるんだ?」
穏やかな口調でそう語った後、ローレンスさんは深々と頭を下げた。
この行動には俺たちも驚く。
あのローレンスさんが頭を下げてまでお願いするなんて……これを受けたギーエンさんの返事は――
「すまないが、俺にも分からないんだ」
「そ、そんな!」
慌てて顔をあげるローレンスさんだったが、どうもギーエンさんは意地悪で真実を語ろうとしないわけではなさそうだ。
「数日前までこの村に彼女がいたのは紛れもない事実だ――が、すでに新たな場所を求めて旅だったよ」
「た、旅立ったって……どこへ?」
「それは彼女自身も分かっていない。あてのない旅ってヤツさ」
ここへ来てまさかのノーヒントへ逆戻り、か。
――いや、待てよ。
「可能性は……まだある」
「ほ、本当か! ベイル・オルランド!」
俺の言葉を耳にしたローレンスさんの表情がパッと明るくなる。
「任せてください。――樹神の剣がきっと導いてくれるはずです」
そう言って、俺は剣を鞘から引き抜くのだった。
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