第329話 前竜王からの言葉
人食いの衝動にかられ、咆哮を繰り返す前竜王バーディンさん。
それを止めるためにシモーネたち竜人族とアルラウネのハノンが里で作った聖水効果を含む野菜を持っていったわけだが……なかなか戻って来ないな。
「だ、大丈夫でしょうか……」
「こればっかりはあたしたちが出ていくわけにもいかないし……」
「信じて待つしかありませんわね」
「分かってはいるけど……もどかしいね」
マルティナ、キアラ、シャーロット、アイリア――俺を含めたこの四人は人間であるため、バーディンさんを刺激する可能性が高く、離れた位置で待機していた。その間に何度か咆哮が耳に入り、不安が募っていく。
だが、迂闊に飛びだすわけにもいかないのでひたすら待ち続けた。
もしかしたら上手くいっているかもしれないのに、俺たちが出張ったせいで失敗に終わるという可能性もあるからな。
それからしばらくして――
「みなさーん!」
「待たせたのぅ」
「っ! シモーネ! それにハノンも!」
ついにシモーネとハノンが戻ってきた。
とりあえずどちらも怪我とかしていないようで何よりだ。
「ど、どうだったんだ?」
俺が尋ねると、他の四人も答えが気になって沈黙。
それに対してシモーネは、
「大成功です!」
満面の笑みとピースサインを添えて答えた。
「ほ、本当か!?」
「はい。バーディンさんは正常な判断力を取り戻し、今は人間の姿に戻って竜人族の里にいます。それで、ぜひとも今回の立役者であるベイルさんに会いたいと」
「俺に?」
「人食いの衝動を食い止める野菜を作ったのはベイルだし、向こうがそう思っても不思議はないんじゃない? きっと褒められるわよ」
「あり得ますわね。元とはいえ、ついに竜王クラスにまで認められるなんて……さすがはベイルさんですわね」
キアラの言葉に対し、目を閉じてうんうんと唸るシャーロット。
他のみんなも概ね似たようなリアクションだが……実際どうなんだろうな。こればっかりは直接会って話をしない限り判断がつかない。
「怒っているようには見えんかったから、キアラやシャーロットの言うようにただ礼をしたいというだけのように感じたがのぅ」
「それなら問題ないんだけどね」
いずれにせよ、直接会って話を聞かない限りは何も分からないか。
前竜王バーディンさん――一体どんな人なんだろうか。
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