第328話 準備万端

 人食いの衝動により暴走しかけている前竜王のバーディンさん。

 しかし、聖水の効果を含んだ野菜を食べることで、それが緩和されるという新たな事実が発覚。これについてはすでに実証済みだ。あとは彼にこの野菜を食べさせて正気に戻ってもらうだけなのだが……これが難しい。


 少なくとも、俺やマルティナ、それにキアラとシャーロットとアイリアは種族的に接近ができない。そうなると、アルラウネであるハノンか同じ龍神族であるシモーネたちにやってもらうしかないのだ。

 この場合、相手との体格やパワーの差を考慮してシモーネ、エセルダ、ヴィネッサあたりに任せるのが妥当だろう。


「やります。みんなで協力してバーディンさんを助けましょう」

「はい!」

「えっ? 俺もやるの? ……まあ、乗りかかった舟だし、最後まで付き合ってやるよ」


 まずシモーネが名乗りをあげ、エセルダとヴィネッサにも協力を要請。

 エセルダの方はヤル気満々といった感じだが、ヴィネッサはそうでもなさそうだ。しかし、兄のハンデスさんや里の人たちからの後押しもあり、少しヤル気が出てきたみたいだな。

 ともかく、ここは竜人族三人娘に託すしかない。

 下手に俺たち人間が出張っていっても足を引っ張る未来しか見えないからな。単純に戦闘というだけなら加勢にいくんだけど、今回のケースはあくまでも野菜を食べさせて衝動を抑えるのが目的。なるべくおとなしくて、有事の際に備えよう。


 というわけで、俺とマルティナとキアラ、そしてシャーロットとアイリアの人間勢は少し離れた位置から状況を見守ることに。里に残ったアルラウネのハノンは連絡役としてその場にとどまった。


「さて……どうなることやら」

「ここはあの三人を信じて待つしかありませんわね」

「もどかしいけど、それしかないわよね」

「みんな無事に帰ってきてくれるといいのですが……」

「大丈夫だよ。あのシモーネがそう簡単にやられたりはしないさ」


 キアラ、シャーロット、マルティナ、アイリア――四人とも、シモーネたちのことが心配でたまらないようだが……今回ばかりは迂闊な行動をとるわけにはいかない。感情に任せて飛びだすようなマネは避けたいのだ。


 ――と、思っていたら、


 ドォン!


 という激しい音と横揺れが俺たちを襲う。


「な、なんだ!?」

「こ、これは非常事態なんじゃない!?」

「シモーネちゃんたちに何かあったのかも!?」


 キアラとマルティナは突然の事態に取り乱しているようだが、シャーロットとアイリアは冷静だった。


「落ち着きなさいな、ふたりとも」

「シャーロットの言うとおりだ。あの巨大なバーディンという前竜王が野菜に反応して動きだしたのかもしれないよ」

「その可能性は大いにありそうだ」


 ふたりの言葉で、俺たちは冷静さを取り戻す。

 果たして……三人はうまくやってくれているだろうか。

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