第325話 解決策

 聖水によって育った野菜が、竜人族にとって長年の悩みとなっている人食いの衝動を抑える――この衝撃的な事実により、竜人族の里には希望の光が差し込んだ。

 これまで人間との交流は避けてきたが、この野菜を食べ続けることで衝動を完全に抑え込めると分かれば、彼らの生活は根本からひっくり返る大きな転換期を迎えるだろう。


 だが、それを実現させるためには先にやらなければならないことがある。

 俺たちがこの森へやってきてからずっと聞こえているあの咆哮……先代竜王を人食いの衝動から解放しなくては。


「君たちの野菜をバーディン様に渡したいのだが……」


 先代竜王ことバーディンさんを救うためには、俺たちの持ってきた野菜が必要になる。

 だが、今回は野菜を売りに来るのが目的の遠征ではないため、サンドウィッチ以外に持ってはいなかった。手持ちをチェックしてみるが、通常の竜人族よりも遥かに大きな体を誇るバーディンさんには明らかに足りない量だ。

 

「困ったのぅ……」

「やっぱり、一度ダンジョン農場へ戻って野菜を持ってきた方がいいかな?」


 アイリアの提案がもっとも現実的ではあるが……問題点もある。


「あれだけの巨体だ。効果が出るにはかなりの量が必要になってくる。運搬できる数には限りがあるし、かなりの時間を要するな」

「これからの仕事にも影響するかもしれないってわけね」


 キアラの指摘通りだ。それに、これは完治するわけじゃなく、あくまでも衝動を抑える効果にとどまっている。今後も人食いの衝動で苦しめられるというなら、むしろ――


「ここで野菜を育てられたら、一番いいんだけど……」


 最適なプランはそれだ。

 俺はこれまでも砂漠のダッテン村だったり、雪と氷に覆われたローダン王国で畑を作ってきた。これらに比べたら、竜人族の里に畑を用意するなど朝飯前――だが、ひとつの条件がそれを困難にしていた。

 

 それは……聖水の存在。


 ダンジョン農場の近くにある地底湖には、無数の魔鉱石が沈んでいる。そこから漏れでる魔力により、野菜づくりに大きな好影響が表れるのだ。


 しかし、ここにはその聖水がない。

 ただ野菜を作るだけでなく、聖水の効果がある水でなければ人食いの衝動を抑え込めないのだ。


「何か手はないか……」


 竜人族の未来を大きく左右する聖水。

 その代わりになるものはないかと辺りを見回していると、


「あっ、もしかしたら……」


 俺はある可能性を見出した。

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