第324話 竜人族の願い
長年にわたって竜人族を悩ませてきた人食いの衝動――それが、俺の持っていたサンドウィッチを口にした途端、綺麗サッパリ消え去ってしまったのだ。
これは恐らく聖水の効果もあるのだろう。
普通の野菜ではなく、地底湖の水に含まれている魔力が人食いの衝動を抑えるのではないかと俺は推察していた。あそこは野菜を育てるのに使っているし、何より水竜シモーネが毎日のように水浴びをしている。
本人は恥ずかしがるだろうから言わないけど……いつも入っているシモーネの出汁も好影響を与えているかもしれない。
まあ、それはともかく、俺は自分の考えをハンデスさんに伝える。
「なるほど……聖水か……噂を耳にしたことはあるが、それを使って野菜を育てようという発想はなかったな」
感心したように呟くハンデスさん。
その発想も、実は原作ゲームである【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中から得たものなんだけどね。この世界で生まれ育った者ならば聖水で野菜を育てようなんて気にはならないだろうからなぁ。
とにかく狙い通りにいってよかった。
安堵していると、竜人族の老人が近づいてくる。
「ワシはこの里で長をやっておるゴダンという者じゃが……そのサンドウィッチに使われている野菜はどこで入手されたか教えてはもらえんか?」
長のゴダンさんは俺たちのサンドウィッチに使用されている野菜が欲しいと言ってきた……それは当然の流れだろうな。
そこで、俺は自分の素性を説明する。
俺自身が農家であり、これは自分の農場で育てた野菜だと。ただ、普通の野菜とは違って聖水を使用しているため、人食いの衝動を抑えることができないのではないかという推察も伝えておいた。
それを聞いたゴダンさんは、野菜を定期購入したいと願いでる。
こちらとしては問題ないのだが、彼は値段を気にしていた。
なので、俺は無償提供を提案する。
「し、しかし――」
「大丈夫ですよ。それに、衝動を防ぐことができれば、他種族との交流も可能になってくるでしょう?」
人食いの衝動によって狂暴化したドラゴンは人に危害を加える。これまで、ドラゴンによって全滅した町もあると聞くし、そういうところの中には人食いの衝動を抑えきれなくて暴走した結果も含まれているはずだ。
竜人族だけでなく、人間にとっても喜ばしい結果になる。
だったら、無償提供という形も悪くないだろう。
だが、ゴダンさんはいつか必ず代金を払えるようにすると約束をしてくれた。自分たちが人間社会に馴染み、独立した生活が送れるようになるまで待ってほしいとのこと。
なら、その機会をゆっくりと待って――
「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」
おっと。
まだ終わるには早すぎたか。
あっちの問題も、このサンドウィッチ作戦で片付けばいいのだが……
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【この男’s(メンズ)の絆が尊い! 異世界小説コンテスト】に参加するため新作を投稿しました。
【悪役王子に転生して追放された俺は運命の相棒と出会う!】
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