第323話 サンドウィッチ作戦

 シモーネがなぜ人食いの衝動にかられないのか――その原因はマルティナの作ったサンドウィッチに隠されていると俺は踏んでいた。


「サンドウィッチって……ひょっとして、マルティナの編みだしたオリジナルの調理法が人食いの衝動を防いでいたとか?」

「そ、そんな特別なことなんてしていませんよ、キアラちゃん」


 確かにマルティナが作る料理は魔法をかけたかのようにうまい。

 だが、今回の場合は調理方法ではなく、原材料の方に原因が隠されていた。

 とりあえず、説明は後回しにしておいて……今は人食いの衝動にかられた竜人族の女性を救わなくては。

 俺はサンドウィッチを手にすると、守ってくれているハンデスさんたちの間をすり抜けて彼女のもとへ。すぐにでも襲いかかってきそうな気配を漂わせていたが、距離が縮まってくると少しずつ様子が変わっていく。


 竜人族の女性の関心は俺が持つサンドウィッチに注がれていた。


「人間ではなくサンドウィッチに視線が注がれている……一体そのサンドウィッチにはどんな秘密が隠されているというんだ!」


 興奮気味に語るハンデスさん。

 たぶん、人食いの衝動に精神が支配されていながらも、興味対象が人間に向いていない今の状況が信じられないのだろう。実際、遠巻きに眺めていた他の竜人族たちも、この事態に関心を抱いたのか集まり始めていた。


 ギャラリーが増えていく中、俺はゆっくりと彼女に近づいていく。

 すぐ目の前という距離にまで接近するが、襲ってくる気配はない。


 そんな女性の竜人族に対し、持っていたサンドウィッチを手渡した。


 女性は困惑し、サンドウィッチをジッと見つめたまま動かない。

 そこで、


「食べてみてください。おいしいですよ」


 と勧めてみた。

 腹が減っているには違いないので、彼女はおっかなびっくりしながらそのサンドウィッチを口にする。

人食いの衝動にかられている竜人族が人間を目の前にして別の食べ物に口をつけるという現象はかなり珍しいらしく、周囲はザワッといろめきだった。


 一体どんな反応を示すのか。

 息を呑んで反応を待っていたら、


「お、おいしい……」


 さっきまで理性の欠片も感じず、本能だけで動いていたような状態だった竜人族の女性が、幸せそうな笑みを浮かべながらそう呟いた。

 次の瞬間、周りで状況を見守っていた他の竜人族たちから歓声があがる。


「こ、これは凄い!」

「奇跡だ!」

「人食いの衝動を克服したぞ!」


 抱き合ったり、中には涙を流して喜ぶ者の姿もあった。

 やがて彼らの関心はサンドウィッチを手渡した俺に向けられる。

 これは……もうひと騒動ありそうだな。

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