第294話 気づいたこと

 ついにマルティナの番が回ってきた。

 ここまでライナ姫が下した他ふたりの評価を見る限り、口では「おいしい」と言いつつも内心ではそう思っていないのではないかと疑われる元気のなさだった。


 そのライナ姫様が、ついにマルティナの料理に手をつける。


「ど、どうなるのかしら……」

「まったく予想がつきませんわ……」


 キアラとシャーロットは不安すぎてお互いに手を握り合って状況を見守っている。この場にクラウディアさんがいたら大興奮しそうな絵面だなと思いつつ、俺も姫様の評価を緊張しながら待っていた。


 スプーンを手に取り、ゆっくりとした動作でスープを口元へと持っていく。それを飲み込んでからしばらく、姫様は無言のままだった。


 ダメなのか。


 周りにそんな空気が漂い始めたその時だった。


「…………」


 姫様は相変わらず無言だったが、スープは二口目に突入。これは先ほどのふたりには見られなかった行動だ。それが意味するところをよく理解できていないため、ここは喜ぶべきなのかどうか判断に迷う俺たち。


「えっと……おいしかったの、かな?」

「なんとも言えんのぅ」

「ですね……」


 アイリア、ハノン、シモーネの三人もライナ姫様の行動を不思議がっている。いや、彼女たちだけでなく、会場中の人たちがその行動の真意を測りかねていた。


 場が困惑に包まれる中、それを意に介さずライナ姫様は三回目、四回目とスープを口にしていく。「うまい」とも「まずい」とも言わず、ただひたすらにスプーンを動かす。さすがにここまでくれば、マイナス評価とは考えにくいが。


 黙々と食べ続けている姫様。

 冷静に考えると、あれって野菜スープなんだよな。

 だというのに、あれほどスムーズに食事ができているということは、少なくとも拒絶しているわけじゃない。むしろ好きな食べ物を前にした時のようなペースだった。

 これは……期待してもいいんじゃないか?

 そして、ついに――


「ふぅ」


 ライナ姫様はスープを完食した。

 リアクションが一切ないため、どう判断したらいいのか迷っている俺たちを尻目に、ライナ姫様はマルティナへと顔を向けると、


「……いつから気づいていたの?」


 そう告げた。

 ――気づく?

 気づくって、なんのことだ?

 一方、姫様の問いかけに対してマルティナは背筋をピンと伸ばして堂々と答える。


「今日のライナ姫様をひと目見た時から、そうではないかと思っていました。でも、まだ確証はなかったため、調理中もずっと気になっていたんです」


 どうやら、マルティナは心当たりがあるらしい。

 一体、姫様の何に気づいたって言うんだ?


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