第293話 まさかの料理

「あ、あれがマルティナさんの料理……?」

「どういうことなんだ!?」


 シモーネとアイリアが困惑するのも無理はない。

 野菜だけを使っているとは思えない豪華絢爛さで勝負をかけるシェリスさん。

 素朴で温かい家庭の味を前面に押しだしたマークライト夫人。

 どちらも見ているだけでお腹が減ってきそうだ。


 一方、マルティナの出した料理とは――なんとスープただひとつ。


「や、野菜スープだけで勝負しようっていうのか?」

「そりゃちょっと無謀すぎないか?」

「味に自信があるのだろうけど、他の料理に比べて見劣りしてしまうな」


 ギャラリーからも不安そうな発言が飛びだす。

毎日ツリーハウスでマルティナの料理を口にしている俺たちとしては、決して実力的に劣っているとは思えない。これまでも騎士団食堂の新メニュー考案とか確かな実績もあるしな。


 ……ただ、今回に限っては狙いが読めない。

 確かに、どんな料理にしようか迷っている素振りはあったけど、だからってスープだけという極端なメニューになるなんて。


「マルティナのことだから、きっと何か考えがあるのよ」


 動揺するメンバーの中で、もっとも彼女との付き合いが長いキアラはそう呟いた。


「あの子の料理の腕はみんな知っているでしょう? 今回の大会に向けて気合も入っていたし、いろいろと熟考してあの結論にたどり着いたのなら私はそれ以上何も言わない。あとは信じて結果を待つだけよ」

「キアラ……」


 真剣な眼差しでマルティナを見つめるキアラ。

 絶大な信頼を寄せているって感じだな。


 ――って、それは俺も同じだ。

 マルティナとの付き合いはもう長いし、彼女はこういう大舞台になればなるほど燃えあがるタイプ。序盤の行動が気にはなるけど、それでも「これが正しい」と導きだした答えならば信じるだけだ。


 全員の料理が出揃い、いよいよ試食へと移る。

 その鍵を握るのはライナ姫様だ。

 自然と、会場の視線は姫様へと注がれる。


「あれ?」


 もちろん俺も姫様を見つめるのだが……なんだか様子がおかしい。

 緊張しているのか、それとも腕自慢の料理人たちが作ったものとはいえ、大嫌いな野菜を食べることに抵抗があるのか、とにかく元気がない。

 青ざめているようにも映る表情で、ライナ姫様は料理が並べられたテーブルの前に立つ。


「じゃあ、まずはこっちから」


 最初に手をつけたのはシェリスさんの料理。

 まずは炒めた玉ねぎを口に含み、咀嚼。

 

「……おいしいわ」


 そして、味を褒める言葉が出る。

 会場は野菜嫌いの姫様が「おいしい」と評価したことで大騒ぎとなるが――どうにも腑に落ちない。

 それは料理を作ったシェリスさんも同じ気持ちのようで、どこか悔しそうにしていた。

 やはり、あれは忖度した発言だと捉えたのだろう。

 おいしいとは言いつつ表情は暗く、引きつったままだし。

 そのリアクションは続くマークライト夫人の料理でも同じだった。

 味は褒めるものの、表情がそれについていっていない。


 一体、何が引っ掛かるというのだろう。


 そして――とうとう最後にマルティナの料理の前へ立った。

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