第295話 結果発表
マルティナはライナ姫様に起きていた異変を感じ取り、直前でメニューの内容を変えていた。
しかし、俺たちはおろか会場の誰も姫様の異変に気づいていなかったというのに……凄い観察眼と言うべきか。
実際、それを考慮して作ったマルティナの野菜スープをライナ姫は完食した。
シェリスさんやマークライト夫人の料理も実際おいしいのだろうが、それよりもマルティナのスープを選んだのだ。
果たして、何を見抜いたのか――会場中がマルティナに注目する。
「厳密に言うと昨日からなのですが……ライナ姫様、お体の調子が悪かったのではありませんか?」
「……その通りよ」
「やっぱり」
途端に、会場がザワつきに包まれる。
体調不良?
しかも昨日から?
それって、俺たちに今日の決勝を辞退しろって迫っていた時から体調がよくなくて、マルティナはそれを見抜いていたっていうのか。
「……キアラよ、気づいておったか?」
「まさか。シモーネは?」
「わ、私も……シャーロットさんは?」
「わたくしもまったく分かりませんでしたわ。アイリアさんは?」
「みんなが気づけないのに僕が気づけるわけがないだろう?」
どうやら、うちのメンバーは誰も体調不良だと察していなかったようだ。ただ、それはキアラたちだけではなく、同じく決勝に参加していたシェリスさんやマークライト夫人も同じだった。
「まさかそのような事情があったとは……」
「それを知り、あえて料理を変えるなんて……」
ふたりは落ち込んだ様子であったが、これがどう勝負に影響するのか。会場中が困惑する中、ライナ姫様が口を開く。
「今回の件についてだけど――」
「マルティナの勝ちだな」
姫様の言葉を遮るように、シェリスさんが言い放つ。
ライナ姫様はギョッとして彼女の方へと視線を向けるが、その顔はどちらかというと「どうして言おうとしていたことが分かったのか」というものであった。
ただ、この結果については異論が出る可能性もある。
純粋な料理の味勝負なのかと問われたら、「違う」と答える者もいるだろう。マルティナもそれが脳裏をよぎったから、ギリギリまで判断を迷っていたのだ。
だが、今回は対戦相手であるシェリスさんやマークライト夫人までも負けを認めた。
「単純な味の勝負でも、マルティナは勝てなかっただろう」
「本当に。それくらいあなたのスープはおいしかったわ」
どうやら、ふたりは姫様の試食後にマルティナのスープを味見していたらしい。その上での敗北宣言だったため、マルティナの勝ちが決定した。
シェリスさんとマークライト夫人の言葉を受けたライナ姫様は、高らかに宣言する。
「勝者は――ダンジョン農場!」
直後、俺たちはマルティナのもとへと駆け寄り、一斉に飛びついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます