第291話 決勝戦

 夜が明けて、ついに決戦の日を迎えた。

 会場は俺たちが野菜を売っていた広場に設けられた特別製のステージ。

 

 多くの観客が駆けつけ、凄まじい盛り上がりを見せていた。

 地元出身のマークライトさんから聞いた話では、このゼノディア王国ではこうした大掛かりなイベントはあまりないらしく、国民にとってもほぼ初めてとなるお祭り騒ぎで興奮しているらしい。


 その本日のイベントだが、メインはそれぞれの農場で収穫された野菜を使用しての料理バトルとなる。


 審査員は大の野菜嫌いで名を馳せるライナ姫様。

 特設された審査員席に座る彼女の表情は硬く、顔色も悪いように見えた。前日に俺たちへ棄権するよう迫ったり、こちらの想像を遥かに超える野菜嫌いだと発覚したからな。もう生きた心地がしないのかもしれない。


「それでは担当の方々は早速調理を始めてください!」

 

 司会を務める男性がそう告げると、シェリスさんとマークライト夫人はすぐさま動きだした――が、


「あら? どうかしたのかしら、マルティナ」

「動きだそうとしませんわ!?」


 キアラとシャーロットが心配そうに語った通り、なぜかマルティナは一点を見つめて不動のまま。


「マルティナ! もう始まっているぞ!」

「――あっ!?」


 俺の叫び声を聞いてようやく動きだしたが……どうにも変だな。


「どうしたのでしょうか、マルティナさん……」

「朝の様子は別段おかしくはなかったのじゃが」

「まさか体調不良で動きが鈍っているとか?」


 シモーネ、ハノン、アイリアの三人も、いつもの調子ではないマルティナを不安げに見つめている。


 しかし、本当にどうしてしまったんだ?

 ハノンの言うように、今朝の宿屋でのマルティナは至っていつも通りだった。あえて何かあったのか挙げるとすれば、今日の対決で何を作るかギリギリまで迷っていたくらいだろうか。


 ただ、それも解決したと本人が明るい表情で口にしていたから、てっきりもう大丈夫なのだと思っていたけど、ひょっとしてまだ迷っているのか?


 一方、シェリスさんとマークライト夫人は手際よく調理を進めていく。さすが、場数を踏んでいるだけあって淀みない動きだ。

 すると、ふたりの調理を目の当たりにしたマルティナが変わる。

 恐らく、今の状態では勝てないと悟って吹っ切れたようだ。


「ふっ、そうこなくちゃね」


 いつもの動きを取り戻したマルティナの姿を見て、シェリスさんは不敵な笑みを浮かべながらそう告げる。

 そんな彼女の料理は、まさに豪華絢爛。

 とても野菜だけを使っているとは思えないくらいカラフルで、離れている俺たちにもそのおいしそうな匂いが届いていた。


「これは……香辛料を使っているようね」

「おまけに市販の物ではなく、オリジナル配合されているようですわ」


 さすがはお嬢様コンビ。

 作る方の技術はさておき、食べる方の知識は豊富だ。


 その横ではマークライト夫人も着実に料理を完成させていた。

 こちらは地元ゼノディアの家庭料理らしく、刺激的なスパイスの香りこそないが、不思議と食欲をそそられる魅力に満ちている。これがいわゆるおふくろの味ってヤツなのか?


 ふたりの料理が出そろってきた中、果たしてマルティナはどんな料理で挑むのだろうか。

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