第290話 親衛隊長のウォルター
いきなりライナ姫様から「料理コンテストを棄権しろ」と告げられて困惑する俺たちの前に現れたひとりの男性。
ウォルターさんというその人物はこのゼノディア国王陛下直属の親衛隊を束ねるいわゆるエリート中のエリートらしく、わがまま放題のライナ姫様に意見できる数少ない存在であった。
「今さら大会を反故にしては、我がゼノディアの信用を損ないます」
「た、たかが野菜の品評会くらいで……」
「なりません。どのような些細な出来事であっても、国家にとってマイナスとなる行動を王家の人間がとるなど……そもそも、今回の品評会については姫様も納得されて開催されたはず」
「うっ……」
おぉ、凄い。
あのライナ姫様が完全に押し負けている。
結局、姫様は渋々ながら品評会決勝の開催を認め、俺たちは晴れて明日の戦いに臨めることとなった。
姫様が去ったあと、部屋に残っていたウォルターさんは俺たちへ深々と頭を下げる。
「この度はまことに申し訳ありません。みなさんの頑張りに水を差すようなマネをしてしまい……」
「あれくらいどうってことありませんよ。むしろ、私としては逆に闘争心が沸き上がってきました」
真っ先に口を開いたのはシェリスさんだった。
「野菜嫌いの子どもをいかにして野菜好きに変えるか。これはある意味、私たちにとって究極のテーマですので」
「その通りだ。おらはどうしても姫様に野菜を好きになってもらいてぇ」
マークライト農場のブリューさんも、姫様の態度は逆効果だったみたい。
――当然、俺たちだって負けちゃいない。
「俺たちダンジョン農場チームも気持ちは同じです。なあ、みんな」
俺が呼びかけると、マルティナたちは一斉に「おぉ!」とヤル気満々といった具合に声をあげた。この手の逆境はこれまで何度も跳ね返してきたんだ。今回だって、きっとなんとかしてみせる。
「そう言っていただけるとありがたい」
ウォルターさんは再び頭を下げると、「それでは明日よろしくお願いします」と告げて部屋を出ていった。
残った俺たちも宿に戻って休息をとろうとしたが、その前にシェリスさんが、
「明日が楽しみだね。どんな料理が出てくるのか……期待しているよ」
高らかに宣戦布告をする。
相手は明日の料理対決で激突するマルティナとマークライト夫人に向けられているようだ。
「私だって負けません!」
「お互いにベストを尽くしましょう」
料理対決で戦う三人は握手を交わす。
正々堂々、真っ向から勝負をしようというフェア精神のあらわれだ。
こうして、一度は中止かもしれないという可能性まで浮上した品評会であったが、無事に最後まで開催されそうでひと安心。
明日の料理対決は果たしてどのような結果となるのか……なんだか、料理をしない俺まで緊張してきたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます