第289話 お姫様からのひと言

 品評会決勝を前に、主催国であるゼノディアのライナ姫様から呼びだしを食らった俺たち。

 決勝に残っているロックウッド姉弟とマークライト夫妻と一緒に、審査員長に案内されて姫の待つ部屋へと通された。


「遅かったわね。まあ、楽にして頂戴」


 入室するやいなや、いきなり尊大な態度で迎えられた。姫という立場ならば、あのような振る舞いも許されるのだろうが……あまりいい気はしないな。ローダン王国のアドウェル王子も似たような感じだったし。


 ともかく、ライナ姫様の言う通りに部屋へと入り、一列に並ぶ。 

 若いとは聞いていたが、年齢としてはハノンの外見と同じで十歳前後くらいか。しかし王族ということもあってか、全体的にまとう空気は大人顔負け。直接顔を合わせてまだ数分ってレベルだが、なぜか彼女が自分よりも年上に思えてしまうくらいだった。

 ソファに腰かけていた姫様は足を組み替えてから俺たちを見回して呼びだした理由を語り始めた。


「あなたたち、全員棄権しなさい」

「「「「「っ!?」」」」」


 思いもよらぬ姫様のひと言に、その場にいた全員が凍りついたように動かなくなる。


「用件はそれだけよ。分かったのならさっさと荷物をまとめて帰りなさい」

「な、なぜ急に?」


 恐る恐る尋ねたのは、地元代表として参加しているマークライト農場のブリューさんだった。農業大国とも言われるゼノディアの代表者としては黙っていられないのだろう。


「だって、おいしくないものを食べたくなんてないもの」

「そ、それはいくらなんでも――」

「やめな、オレン」


 あまりにも理不尽は言い分に、ロックウッド姉弟の弟であるオレンさんが抗議の声をあげようとしたが、それを姉のシェリスさんが止めた。

 彼女の視線は俺たちをここへ連れてきた審査委員長へと向けられる。


「ライナ姫様のご意向としては品評会の中止ということらしいが……それでよろしいのですかな?」

「そ、それは……」

「何よ。この私が嫌だと言っているのだから中止に決まっているじゃない」

 

 困惑する審査員長だが、姫様は中止しろの一点張り。連携が取れていないというか、なんかもうグダグダな流れになってきたぞ。

 混沌としてきた部屋に、突如誰のものでもない渋めの声が響いた。


「いけません、姫様」

「っ!? ウォ、ウォルター……」 


 ライナ姫様の強気の表情が一気に崩れた。

 音もなく室内に侵入してきたのは三十代後半から四十代前半ほどの男性。長い銀髪を後ろでまとめた髪型に、特徴的な丸眼鏡……パッと見たただけでも、「あっ、仕事のできる人だ」って感じさせられるエリートオーラで溢れていた。


 俺はこの人物の正体を知るべく、審査員長にこっそり尋ねてみた。


「あの人は誰なんですか?」 

「ウォルター・ディカミロ殿です。国王陛下直属となる親衛隊の隊長を務められており、姫様に真っ向から意見できる数少ない人物でもあります。

「なるほど……」


 怖いもの知らずのワガママお姫様も、あのウォルターって人は苦手みたいだな。





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スローライフな新作をはじめました!


【噛ませ王子は気ままな辺境暮らしを望む! ~悪役王子に転生した直後に追放されたので、田舎暮らしを楽しみます~】


https://kakuyomu.jp/works/16817330652651184226


是非、読んでみてください!


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