コミカライズ開始記念SS「これまでを振り返って」

 いつものようにダンジョン農場で作業をし、ちょっと休憩しようと手頃な岩に腰を下ろす。

 今日はマルティナとアイリアが朝からダンジョンへと探索に出ており、キアラとシャーロットは学園に課題の提出へ出ていて、シモーネとハノン、そしてクラウディアさんはドリーセンの町へ買い物に行っている。

 つまり、農場にいるのは俺だけという状況だ。


「なんだか……こう静かだと不安になってくるな」


 大きく息を吐きだしながら、改めて人が増えたんだなぁと実感する。最初にここへ来た時はマルティナとふたりだけだったからな。

 ――って、厳密に言えばウッドマンたちがいたか。

 今も忙しなく家事をしてくれているし。


 まあ、彼らは魔法使いでいうところの使い魔って感じだしね。マルティナたちと同じ土俵でカウントするのはちょっと違うかな。

 ともかく、静かで穏やかな雰囲気が辺りに漂っている。そういえば、ここにひとりでいるのって初めてじゃないか?

 後ろを振り返れば、俺たちの住居であるツリーハウスが悠然とたたずんでいる。これもすべては竜樹の剣の力だからこそ成し得た奇跡――今思い返しても、よく授けてくれたよと神に感謝したい。


 まったりしていると、不意に前世の記憶が脳裏をよぎった。

 といっても、それは決して暗い記憶というわけではなく、過酷な社畜時代の唯一の楽しみといっていいマンガのことだった。


「そういえば……アレの続きはどうなったんだろう……」


 あの頃特にハマっていたのはスローライフをテーマにした異世界モノだった。いわゆるコミカライズってヤツだ。


 そういえば、この「ファンタジー・ファーム・ストーリー」もコミカライズしていたんだよなぁ。電子で単行本を買ってたっけ。こっちでは読めなくなっているから本当に残念だ。

 

「元ネタといえば……うちにいるメンバーって基本的にゲームのメイン登場人物とは無縁だよなぁ」


 グレゴリーさんやスラフィンさんはゲーム内に実在している人物ではあるが、メイン登場人物というよりもプレイヤーを支援してくれるお助けキャラって位置づけだからな。もしかしたら、そのうちゲームのメインキャラと遭遇するかもしれないな。


 もしそうなったら……テンションめちゃくちゃ上がるだろうな。


「ただいま戻りました~」

「やれやれ……今日はいつも以上に戦闘が多かったから疲れたよ」


 そうこうしているうちに、マルティナとアイリアが帰宅。これを皮切りに、他のメンバーもみんなツリーハウスへと戻ってきた。まるで示し合わせたかのようなタイミングだ。


 ……こうして、改めて自分の現状を見ると、なんだかこっちはこっちでいい感じの物語ができそうな気がするんだよな。今に至るまで、結構いろんな出来事があったわけだし。


「どうかしたんですの、ベイルさん」

「っ! な、なんでもないよ」


 なんとなく、本編の内容と自分のこれまでを照らし合わせていたら不思議そうな顔をしたシャーロットが声をかけてきた。さらに、やれやれと肩をすくめたキアラが続く。

 

「ほら、早く行きましょう。マルティナやクラウディアさんがおいしい夕飯を作るって張りきっているんだから、私たちも手伝わないと」

「そ、そうだな」


 俺はふたりと一緒にツリーハウス――いや、この世界における我が家へと。

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