第288話 決勝進出
ゼノディア王国で行われている野菜の品評会。
王都に来た人たちに自慢の野菜を販売し、その売り上げの順位から優勝候補は三つの農場に絞られていた。
ひとつは俺たちダンジョン農場。
レアな効果を持つ野菜を購入できるというウリで宣伝していたことと、こちらの評判を耳にしていた人も多く、屋台を始めるとすぐに人が集まってくれた。
ふたつ目はウッドロック農場。
ナリバス王国出身の姉のシェリスさんと弟のオレンさんの兄弟で経営しており、各地の品評会で高い評価を得ているという。その噂を耳にしている人たちが集まり、評判通りの味を堪能して絶賛の嵐だった。
そして最後のひとつはマークライト農場。
こちらは地元の農家さんらしく、まったく情報がない。
農場主だというブリューさんはいかついマッチョで、どことなく雰囲気がグレゴリーさんに似ている。ただ、年齢はこちらの方が十歳以上は上かな。たぶん、五十代後半くらいだろうか。
以上、三つの農場が最有力候補となった。
辺りが暗くなってくる頃と初日が終了。
ここから、品評会の実行委員会メンバーが厳正に審査し、改めて先ほどの農場が選出され、明日のお昼に決勝が行われるとのこと。
「決勝って……まるで武闘大会みたいね」
「た、確かにな」
キアラの言う通り、なんだか格闘技の大会に参加しているような感覚だな。それだけゼノディア王国も本気になって優秀な野菜を探しているってことなんだろうけど……そういえば、もともとは姫様の野菜嫌いを克服させるというのが目的だったな。
「では、決勝へ進出される農場の関係者はこちらへ」
品評会の審査員長からの呼びかけにより、とりあえず代表者三名が集まる。
「これより、姫様にお会いしていただきたいのです」
「ひ、姫様に?」
いきなりのご対面に、俺だけじゃなく他のふたりもさすがに驚いているようだった。それについて、シェリスさんが審査員長に詳細な情報を求める。
「随分と急な話ですね。当初の予定では、姫様と顔を合わせるのは優勝者が決定した後の表彰式からだとうかがっていたのですが」
「えぇ。当初はその予定でしたが……」
「また姫様のアレが出たというわけですな」
何やら言いにくそうにしている審査員長に助け舟を出すように、地元出身のブリューさんが苦笑いを浮かべながらそう告げた。
姫様のアレ……他国出身である俺やシェリスさんはピンと来ていないけど、どうやら地元の人たちにはそれで通じるらしく、審査員長も「そうなんです」と俺たちに頭を下げながらハンカチで額の汗をぬぐった。
「どうやら……なかなかクセの強い姫様のようですね」
「クセというより、少々我が強いというか……」
ブリューさんはだいぶ慎重に言葉を選んでいたけど、たぶん直訳すると「物凄くわがまま」ってところかな。
でも、そうなると気になるのは――
「もしかして、姫様が俺たちに会いたいと?」
「は、はい。決勝まで残った者たちと話がしたいとおっしゃられまして……」
うーん……審査員長の顔色からして、あまりいい意味ではないようだ。
一体、俺たちに何を言おうとしているんだ、ゼノディアの姫様は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます