第287話 品評会スタート!

 クレンツ王国代表として、ゼノディア王国で開催される野菜品評会に参加した俺たちダンジョン農場チーム。

 品評会の真の目的は、野菜嫌いというお姫様に少しでも野菜を好きになってもらおうという実にほっこりとしたものであったが……王座を目指す者たちの間で飛び散る火花はそうした空気とは正反対であった。


 全員がガチ。

 本気で優勝を狙いに来ている。

 ゼノディア王都全体の雰囲気としてはお祭りっぽくて楽しげな感じだが、肝心の参加者たちはピリピリとしていて緊張感が漂っている。


 中でも、注目を集めているのがナリバス王国から来たというロックウッド姉弟。

 ふたりはこれまで何度も別の品評会で受賞している、いわば常連組であり、優勝の最有力候補と目されていた。


 実際、ロックウッド姉弟の野菜はおいしいし、評判もいい。おまけに、彼らの住むナリバス王国は大陸最南端に島国で、そこは年中気温が高くて降水量が多いという熱帯気候の特徴を持っていた。そのため、島でしか育たない珍しい野菜も多く、それが人々の興味関心を引きけているのだ。


「思わぬライバルの登場ですね……」


 屋台の準備中、マルティナは珍しく険しい表情でそう語った。

 

「ああ……でも、俺たちの野菜だって負けちゃいないはずだ」

「そ、そうですよね!」


 俺が声をかけると、ハッとなっていつもの調子に戻る。

 なんだか、俺たちが感じているのとは異質の緊張感に包まれているようだが……って、そういえば、野菜を使った料理対決があるんだったな。

 野菜のうまさが互角ならば、料理人の腕が勝敗の決め手となる――マルティナはそれを感じ取って緊張しているようだった。


 励ましてあげたいが、どう声をかけたらいいや……悩んでいるうちに、屋台では俺たちの野菜を求めるお客さんたちが集まっていた。


「フレイム・トマトってうまいな!」

「サンダー・パプリカもまるでフルーツみたいに甘いわ!」

「さすがは噂のダンジョン農場産。期待通り――いや、それ以上の野菜だよ!」

 

 俺たちの作った野菜は、ゼノディア王国でも好評だった。

 ここまではロックウッド農場とほぼ互角ってところか。

 やはり、雌雄を決するのはこの後の料理対決になりそうだ。



 屋台での販売分は、三時間もする頃にはすべて売り切れていた。

 俺たちの前評判を聞きつけて集まってきてくれた人も多かったようで、想定よりもずっと早く完売したな。知名度って大事なんだなぁと改めて感じたよ。


 さて、俺たちと同じように完売した農場は他にふたつあった。

 ひとつはロックウッド農場。

 そしてもうひとつは地元ゼノディアにあるマークライト農場だ。


「マークライト農場か……」


 こちらはほとんど絡みがなかったから、どんな人たちが運営しているのかまったく知らなかった。地元にあるということで、王都に集まっている人々には馴染み深いという有利な要素が働いている面も大きいのだろうが、それだけで完売まで持っていけるとは到底思えない。

 人が集まるということは、それだけ売られている野菜がうまいのだろう。


 ともかく、こうして優勝候補は三つの農場に絞られたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る