第286話 ライバル登場?
俺たちに声をかけてきたのは、二十代後半くらいの男性だった。
どうやら、黒髪に口髭を蓄えたその人がこの野菜を作った張本人らしい。おまけに俺たちを見て「敵情視察」という言葉が出てくるということとは……こちらについて諸々と調査済みのようだ。
つまり……彼もまた、品評会へ参加する農家というわけか。
「俺の名はオレン・ロックウッド。ナリバス王国で四代続くロックウッド農場を運営している者だ」
自信満々の表情で自己紹介をするオレンさん。
ならばこちらもひとりずつ自己紹介をしようと思ったのだが、それよりも先にオレンさんが話を続ける。
「クレンツ王国では名が売れているようだが、ここではそれも意味はないぞ。純粋な味の勝負になるというのを覚えておいてもらおう」
「は、はあ……」
「…………えっ?」
「えっ?」
「それだけか?」
「それだけですけど……」
な、なんだ?
オレンさんは納得いっていない様子だけど……俺としてはこれ以上何も言うことはないんだけどな。それとも自己紹介を待っているとか?
――しかし、どうやら違ったようだ。
「ず、随分と余裕の態度じゃないか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「我らなど敵ではないという――」
「うるさいよ、オレン」
叫びだしたオレンさんを止めたのは、エプロン姿の大柄な女性だった。
「シェ、シェリス姉さん……」
「まったく……今回の品評会はこれまでに出てきたものとは違うんだよ。そこのところを勘違いするんじゃないよ」
「わ、悪かったよ……」
さっきまでの威勢はどこへやら。強気だったオレンさんの勢いは、お姉さんであるシェリスさんにポッキリと折られてしまったようだ。
だが、シェリスさんが店頭に出てきた途端、周りがにわかにざわつき始めた。
「お、おい、あれはシェリス・ロックウッドじゃないか?」
「何っ!? 大陸中の品評会に参加し、賞を総なめにしているというあのロックウッド農場の!?」
「こりゃ凄い!」
どうやら、弟のオレンさんより、姉であるシェリスさんの方が知名度的には上のようだった。
「愚弟がろくでもない絡み方をしたみたいで、申し訳なかったね」
「い、いえ、そんな」
「あんたたちの噂は聞いているよ。ダンジョン農場のベイル・オルランドだね?」
「は、はい」
周りが騒然とするくらい有名な農場の経営者に名前を覚えていてもらえたなんて……嬉しい反面、これほどの人物が育てた野菜と対決することになるとは。
「ベ、ベイル! 私たちも負けていられないわよ!」
「そうですわ! こちらも対抗して屋台を出しましょう!」
シェリスさんの評判に触発されたのか、キアラとシャーロットがそう提案してきた。
まあ、俺たちの野菜を広くいろんな人に知ってもらうという意味もあるし、ここはその話に乗っておくとしよう。
「よぉし! こちらも屋台を始めるぞ!」
「「「「「「おおー!」」」」」」
気合十分の雄叫びをあげたところで、早速準備開始といくか。
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