第275話 穏やかな日々
無月草を入手し、ダンジョンへと戻ってから一ヵ月が経った。
あれから特に変わったことはない。
一応、レジナルド騎士団長には事態のすべてを話しており、このダンジョン近辺を見回りに来てくれる騎士が増えた。
彼らにはお礼としてうちの農場で収穫した野菜をプレゼントしており、とても喜ばれている。まあ、ほとんどが魔力絡みの効果が得られる野菜なので、本当は魔法兵団の人たちの方がウケそうではあるが。
しかし、味は間違いなく最高。
だから、普通に食材として楽しんでもらえているみたいだ。
「それにしても……平和じゃのぅ」
「くあぁ~」とあくびをしながら、ハノンが言う。
「本当になぁ……」
飼育しているニワトリやヤギたちにエサを与えながら、俺はハノンの言葉に対してそう答えた。
平和――確かに、とてつもなく平和だった。
あれ以来、霧の魔女はどこにも姿を見せてはいない。ただ潜伏しているだけなのかもしれないが、表立って悪さをしているわけじゃないというのも要因だろうな。
「しかし……こうも平和だと少し刺激が欲しいとは思わんか?」
「刺激?」
いきなりハノンがそんな提案をしてくる。
刺激、か。
「具体的にはどんなことだ?」
「そうじゃのぅ……とんでもなくバカデカいモンスターが襲ってくるとか?」
「すでにうちにはシモーネがいるからなぁ」
「ぐっ……言われてみれば」
デカいだけのモンスターならばいくらでも対処できるだろう。何せ、うちには泣く子も黙る水竜シモーネがいるのだから。戦闘関連で困った時は、彼女の咆哮ひとつで大体解決できるのだ。
「ワシとしては、全員でまたどこかに遠征へ行きたいのじゃがな」
「遠征かぁ……」
この場合の遠征というのは、トラブル絡みじゃないっていうのが前提だろうな。そうなると、シャーロットの実家であるブラファー家の別荘へ行った時以来ないのか。
あまり出かけないのは、ダンジョン農場での仕事があるからだ。
それに、俺たち農場担当だけじゃなく、マルティナやキアラたちは毎日ダンジョン探索に汗を流している。
俺たちは毎日それぞれの仕事で忙しい……だから、仕事絡みじゃないとあまり遠くへ足を運ばなくなっていた。
しかし……ハノンの言うことも一理ある。
たまには休みの日を作って、みんなと外に出かけるというのも悪くない。
「あまり長い期間ここを空けられないけど、どこかに遊びに行くという案に関しては大賛成だ」
「でしたら、次はぜひこのわたくしも同行させてください」
「うおっ!?」
気がつくと、俺のすぐ後ろにメイドのクラウディアさんが立っていた。相変わらずプロの殺し屋かってくらいに気配を感じさせない。
「も、もちろんだよ」
「その言葉が聞けてよかったです。それでは、お掃除の続きをしてきます」
「あっ、はい」
回れ右をしてツリーハウスへと戻っていくクラウディアさん。
……あれは本気で俺たちと出かけたいって態度だな。
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