第273話 協力魔法

 霧の魔女を追い払った後、キアラとシャーロットは回復魔法で襲われた人たちを治療していった。

 一方、俺を含めた残りのメンバーで行方が分からなくなっているゴンザレスさんの捜索に当たる。すると、例の滝近くで気を失っているゴンザレスさんを発見。


「大丈夫ですか!」

「あ、あぁ……」


 魔法による影響だろうか。

 ゴンザレスさんは意識が朦朧としており、目も虚ろで焦点が合っていない。かなり危険な状態であるのは一目瞭然であった。

 俺は彼を背負うと、すぐにキアラとシャーロットのもとへと走る。彼女たちが治せる魔法を覚えているかどうかは不確かだが、今はふたりに頼るしかなかった。


 ――で、現状を目の当たりにしたキアラとシャーロットの反応は、


「…………」


 無言。

 さらに、ひと目で「ヤバい状況」であると察せられる険しい表情を浮かべていた。


「ねぇ、シャーロット……これって……」

「間違いありませんわ。――催眠魔法の類ですわね」

「さ、催眠魔法?」


 あまり聞いたことのない魔法だな。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中にも、いくつか使用可能な魔法はあったのだが、そのどれにも当てはまりそうにない。

 

「どういう魔法なんだ?」

「簡単に説明すると、相手を意のままに操れるの」

「っ!? そ、そんな魔法が実在するのか!?」


 それってかなり危険な効果じゃないのか?

 仮に、これを使って大国の国王を自由に操れるようになったら、それこそ世界を巻き込んだ大パニックになりかねない。

 ――しかし、現状ではそのような事態に陥っていないため、かなり制限のある魔法なのだろうな。


「催眠魔法は世界的にも使用が禁じられている禁忌魔法のひとつですわ」

「そ、そんなものがあるのか……」

「ただ、その習得には最低でも三十年は修行を積まなくちゃいけないって言われているのよ。そもそも、どうやって身につけるのか……その魔導書のありかさえ分かっていないらしいわ」

「な、なるほど……でも、霧の魔女はだいぶ若く見えたけどな」

「あれが本来の姿であるとは思えませんわ」


 そういえば、魔女と呼ばれる人たちは長寿らしいからな。中には三百歳を超えていながらも見た目は幼女って人もいるみたいだし。


 ――っと、本題からそれてしまったな。


「そ、それで、治るのか?」

「方法は知っているけど、それで本当に治せるのかどうかは……」

「やってみなければ分かりませんわ!」


 少し弱気だったが、すでにヤル気満々のシャーロットに触発されてキアラも考えを改める。本当にいいコンビだよ、このふたりは。


 ともに将来を有望視される魔法使いたちは、自分たちのできる最大限の魔力を注ぎ込み、ゴンザレスさんにかけられた催眠魔法を解こうとする。

 

 その結果は――


「あっ! ゴンザレスさんの顔色がよくなってきました!」


 マルティナの言う通り、ゴンザレスさんの容体は落ち着き始めた。

 どうやら、魔法は成功したらしい。


「お疲れ様、ふたりとも」

「「ふぁい……」」


 まともに返事ができないほど疲労したらしい。

 時を同じくして、学園からの応援が到着。

 これでようやくホッとできそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る