第271話 本気
「本当に素晴らしい剣ですね~」
霧の魔女の目つきは、明らかにさっきまでとは異なる。
学園での騒動の際、一度戦ったことはあるが……恐らくあの時は霧の魔女も本気じゃなかったのだろう。侮っていたところに思わぬ反撃を受けたから撤退したって感じだったのだが、今回は違う。
一度ならず二度までも自分の思い通りにいかない相手――霧の魔女は俺をそう認識したようだ。
……俺としても退く気はない。
立ちふさがるというなら――倒すまでだ。
「いけ! 樹竜!」
樹神の剣が生みだした俺の使い魔とも言える樹竜は、今度こそ霧の魔女を捕らえようと大きな口を開けて襲いかかる。
樹竜だけじゃない。
鹿型モンスターを倒したソルレイを再び呼びだし、樹竜の援護に向かわせる。
「あらあら~、まだそんな力を隠していたんですね~」
樹竜にソルレイ。
現状、俺にとって最強の使い魔である二体を前にしてもなお、霧の魔女の余裕の態度は崩れなかった。
まだ何か秘策が――というより、実力を発揮しきっていないのだから当然だろうな。むしろこっちとしてはこれ以上の攻撃手段がないので、防がれてしまうと非常にまずい状況なのだが……
祈るような気持ちで俺は樹竜とソルレイを見守る。
あと少しで直撃――というところで、二体が突如方向転換し、霧の魔女を避けるようにして倒れた。
「なっ!?」
一体何が起きたのか理解できず、思わず叫ぶ。
だが、よく見ると樹竜とソルレイの体はまるで鋭利な刃物で傷つけられたかのようにボロボロとなっていた。
「これは……風魔法?」
「ご名答~」
気の抜ける声で、霧の魔女は言い放つ。
魔力によって生みだされた炎でも焼かれなかった樹竜の肌を傷つけるほどの威力……あれを人間が食らえば、一瞬に真っ二つになってしまう。
「そろそろその剣を渡す気になってくれましたか~?」
ニコニコと微笑みながら尋ねてくる霧の魔女。
……まあ、ここで俺が素直に樹神の剣を渡したところで、きっと彼女は俺にトドメを刺すだろう。仮に渡さなかったとしても同じ未来が待っている――つまり、「詰み」の状態だった。
どうやってこの状況を打開すればいい……?
ゆっくりと歩み寄る霧の魔女に対し、ただ考えを巡らせるしかできなかった――その時だった。
「ベイル!!」
遠くから、俺の名前を呼ぶ声――あの声は、
「っ! キアラ!」
間違いない。
あの声はキアラのものだ。
「お友だち……随分と早い到着でしたね~」
それまで余裕だった霧の魔女の態度に、わずかだが変化が生まれる。
どうやら、キアラたちがここを突きとめるにはもう少し時間がかかると思っていたらしい。
――が、まだ問題はすべて解決したわけじゃない。
周辺に張り巡らされた霧の魔女による結界魔法。
こいつをなんとかしない限り、キアラたちとは合流できないのだ。
「それなら……」
俺はイチかバチかの賭けに出る。
どうせこの場で大人しく待っていたとしても、状況は好転しない。
それならば、多少のリスクを冒してでも助かる道へ歩きだす。
その想いを掲げ、俺は樹神の剣にありったけの魔力を込めた。
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