第269話 望まぬ再会
俺たち以外に無月草を求めてこの森に来た第三者――しかし、仮にそうだとしたらあまりにもタイミングがよすぎる。
まるで、今日この時に情報を持っている俺たちがここへやってくることを事前に知っていたような……だが、それを疑い始めると浮かび上がるのは内通者の存在だ。
無月草を求めている者の正体は不明だが、学園の調査団が絡んでいることを知っていながらそれを横取りしようと目論んでいるのなら……相応の実力者ってことになるな。
疑わしいのは未だに姿を見せないゴンザレスさん。詳細は気を失っている調査団のメンバーが意識を回復するのを待つしかないのだが、そこまで悠長には構えていられないだろうな。キアラたちの姿が見えないことも気にかかるし。
「一度マルティナたちにも声をかけてみるか」
この場で考えていても仕方がない。
とりあえず、合流してから相談しようと振り返った――その時、
「む?」
目の前に白い煙が現れる。
これは……霧か?
「霧……っ!?」
この現象については、正直嫌な思い出がある。
学園を巻き込んだ大騒動に発展した、あの事件の首謀者――霧の魔女だ。
まさか……無月草を探していたのは霧の魔女なのか?
だとしたら、この場に単独でいるのは危険だ。
というか、こうして霧が出ているということは――
「あら~? どこかで見た顔ですねぇ~」
「っ!?」
背後からの声に驚いて振り返ると、そこには今もっとも会いたくない人物が立っていた。
「霧の魔女……!」
「う~ん? 誰かと思ったら前に会ったダンジョン農場の子ですね~」
向こうもこちらを覚えていたのか。
掴みどころのない性格をしていたものだから、てっきり忘れ去られているのだとばかり思っていたけど。
「ずっと探していた無月草についてようやく有力な情報を手に入れたので来てみたら……まさかまたあなたが邪魔をしに来るとは思いもしませんでした~」
「俺たちは俺たちで無月草を手に入れるために来ただけだ。そっちの事情なんて知るわけがないだろう」
「うふふ……この私を前にしても強気な――あら?」
ふと、切の魔女の視線が俺の手元へと向けられた。
そこにあるのは――握られている樹神の剣だ。
「その剣……前に見た時もかなり変わっているという印象を受けましたが、今はさらにおかしな感じになっていますね~?」
「おかしな感じ?」
なんだか、あまりピンと来ない表現だな。
まあ、【ファンタジー・ファーム・ストーリー】においては設定しか存在しない超ド級のチートアイテムなので、そのゲームの登場人物である霧の魔女が知らなくても無理はない。
――だが、厄介なことにそのアイテムが魔女の関心を引いたようだ。
「決めました~。無月草と一緒にその剣もいただいていきましょ~」
「なっ!?」
……まずいことになったぞ。
立ち込める濃霧の中、俺は霧の魔女と一対一で戦うハメになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます