第267話 新たな能力

 夜の森に現れた鹿型のモンスター。

 せっかく無月草を持ち帰ったっていうのに、喜んでいる暇もない。大勢が負傷しているみたいだし、ここは手早く済ませて治療をしなくては。


「手加減はなしだ! 最初から全力でいく!」


 俺は竜樹の剣に魔力を注ぐ――すると、剣の形が徐々に変化していった。

 その名は樹神の剣。

 竜樹の剣のもうひとつの姿だ。


「いくぞ!」


 マルティナやシャーロットには怪我人たちの治療に専念してもらい、その間に俺がこのモンスターを倒す。

 キアラたちがまだ合流していないのは気にかかるけど、彼女たちならばきっと大丈夫だろう。それに、上空からはドラゴン形態のシモーネが目を光らせてくれている。何かあれば伝えてくれるはずだ。


 そういうわけで、俺はモンスター討伐に全力を注ぐ。


「新しい神種の力を試されてもらうぞ」


【ファンタジー・ファーム・ストーリー】内での竜樹の剣は、武器としてよりも農業特化型のアイテムとして運用されていた。


 だが、この樹神の剣はそれだけにとどまらない。


 何せ、あまりにもバランスブレイカーだからという理由でゲーム内での実装が見送られたほどのぶっ壊れ性能をしているのだ。


 扱える神種の数も竜樹の剣とは桁違いに多い。

 以前、キアラやシャーロットと一緒にこの剣の可能性を確認するためいろいろと試してみたが――攻守にわたって万能であることが発覚。おまけにまだ底を見せていないという恐ろしさだ。


 俺はその際に見つけた神種のひとつを早速実戦で使用してみることにした


「神種――ソルレイ!」


 今回使用するのはソルレイという名の種。

 こいつは成長すると大量の蔓に巻かれている人型となり、意思を持って種を植えた人物のために戦う。言ってみれば、召喚獣のような役割を果たす。

 ちなみに、こちらの与えた指示をこなすと再び種へと戻る。


ソルレイは樹神の剣の力もあってすぐに成長し、鹿型のモンスターと戦闘を繰り広げ始めた。

 キアラの調べによると、このソルレイの種を奇跡的に入手できたとしても、普通に育てた場合は今くらいの大きさになるのに最短でも五百年はかかるのだという。

 それをほんの一瞬のうちにやってのけてしまうのだから、いかにこの樹神の剣というアイテムがとんでもない性能かが分かるな。


「シュルルルルル!」


 独特の鳴き声をあげながら、ソルレイは全身の蔓を鹿型モンスターへと絡めていく。大きさはほぼ互角なので、こうなってくると圧倒的にソルレイが有利となる。


 全身を使って締めあげていく一方、蔓の先端についた針がモンスターの体に食い込んでいく。やがて痛さからなのか、モンスターからは弱々しい声が聞こえてきた。

 

 どうやら、これで決着はついたようだが……キアラたちは何をしているんだ?

 一度、上空にいるシモーネにもコンタクトをとった方がよさそうだな。

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