第266話 夜の闇に現れたモノ
竜樹の剣に導かれて、俺とマルティナとシャーロットの三人は見事お目当ての無月草を入手した。
「「イエーイ!」」
マルティナとシャーロットはテンションも高く、ハイタッチをして無月草のゲットを喜んでいる。もちろん、俺も嬉しいわけだが……それ以上に、竜樹の剣の新たな可能性に驚きを隠せないでいた。
これまでになかった感覚――まるで、竜樹の剣と対話をしているようだった。
なんだか……ちょっと大袈裟かもしれないけど、竜樹の剣は新たな領域に足を踏み入れたような気がした。
もちろん、この剣には樹神の剣という第二の進化した姿があるわけだが、それとはまた違ったベクトルというか、方向性が異なるって感じだ。
「早くこのことをゴンザレスさんに教えてあげましょう!」
「ああ、そうだな」
マルティナの言う通り、この無月草を誰よりも心待ちにしているのはゴンザレスさんに違いない。こいつを収穫してすぐにでも合流しよう――そう思った瞬間だった。
「きゃああああああああっ!」
夜のしじまをつんざくような叫び声。
これは……キアラの声だ!
「い、今のって……」
「キアラさんに何かあったようですわ!」
「みたいだな――行こう!」
俺たちは急いで無月草を持ってきた小さな麻袋の中にしまうと、キアラの悲鳴が聞こえた方へと駆けだす。
夜の闇が邪魔をしてうまく進めないが、なんとか茂みをかき分けて目的地へとたどり着く。そこには、衝撃的な光景が広がっていた。
「ど、どうしたんだ!?」
周りにはたくさんの人が横になり、まったく反応を示さない。気を失っているみたいだが……一体何があったんだ?
叫び声をあげたキアラを捜すも、そこにはいない。
もしかして、別の場所に移動したのだろうか。
ともかく、原因は一切不明だが異常事態が発生しているということだけはハッキリと分かった。俺は咄嗟にマルティナとシャーロットに油断しないよう声をかける――が、その脅威はすでにふたりの背後にまで迫っていた。
「っ!? 後ろだ!」
俺が叫ぶと、ふたりは同時に俺の方へと飛び退く。この辺はさすがというべきか、素早い反応だ。
マルティナとシャーロットの背後に迫っていたのは……不気味に赤く光る瞳だった。
「モ、モンスター!?」
「そのようですわね。……でも、この一帯にモンスターは出現しないという情報だったはずですわ」
「事情が変わったんだろうよ……」
モンスターの生息域は一定ではない。昨日まで平和だった森に獰猛な肉食モンスターが出現した例もある。今回もまた、その例外の一種らしい。
赤い瞳の持ち主は、ゆっくりと俺たちに近づいてくる。
やがて、ぼんやりとした月明かりがその正体を明確にした。
「デ、デカい……」
現れたのは五、六メートル近くある巨体に鋭くいびつな形状をした角を持った鹿型のモンスターであった。
「も、もしかして、キアラちゃんたちはこのモンスターに襲われたんですか!?」
「まだそうと決まったわけじゃないぞ、マルティナ。――とりあえず、こいつを倒してから考えよう」
鼻息も荒く、どう見ても俺たちを襲う気満々の鹿型モンスターを討伐するため、俺たちは一斉に武器を構えた。
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