第265話 竜樹の剣に導かれて

 まるで俺たちを導くように輝く竜樹の剣。

 その光に従って、俺たちのチームは発見した例の滝の近くで無月草を探すことにした。



 ――迎えた夜。

 淡い月明かりと発光石を埋め込んだランプによる光が周囲を照らしだす中、夜の間にしか出現しないという無月草を求めて捜索を開始する。


「それにしても……この辺りは暗いですね」


 マルティナがそう口にするのも無理はない。

 昼間は気づかなかったが、この辺り一帯は特に草木が鬱蒼と生い茂っており、月明かりが届きにくい位置関係だったのだ。

 夜の間にのみ姿を現さないという無月草――一部説では月光を浴びるために地中から出てくるのではないかとも言われているため、それが届きにくいこの場所はかえって育つのに不向きではないのかと思えてきた。


「失敗だったかなぁ……ここを選んだのは」

「でも、竜樹の剣がわたくしたちへ何かを訴えるように光ったのは事実ですわ」

「そうなんだよなぁ……」


 シャーロットの証言通り、竜樹の剣はこの場で見慣れぬ光を放った。

 それはこの場に俺たちが探し求めている無月草が出現すると予告しているのではと捉えたのだが……今現在まで何も反応がないことも考えると、その読みは外れていたのかもしれない。


 あきらめて移動を持ちかけようとした――まさにその時だった。


「あっ!」


 何かを発見したらしいマルティナが叫ぶ。

 彼女の視線を追ってみると――なんと、そこには上空から地上へと伸びる光の柱があった。


「あ、あれって……」

「どうやら、あの一帯にだけ月光が降り注いでいるようですわね」


 夜空を見上げながら、シャーロットが言う。

 言われてみれば……確かに、あの光の柱が発生している部分だけ木の枝が少なく、月明かりがあのように伸びてきているのか。

 ――と、いうことは、


「あそこだ! あの光の柱のもとに無月草があるはずだ!」


 興奮気味に俺は叫ぶ。

 無月草があるかもしれないという可能性に対してテンションが上がったというのもあるが、それよりも気持ちをたかぶらせたのは竜樹の剣の存在だった。


 これまで、俺はその力を一方的に借りてきた。こちらが必要な時に魔力を送って、秘めたる力を開放し、さまざまな窮地を乗り越えてきた。


 ……けど、今回は違う。

 俺が頼るよりも先に、竜樹の剣の方が答えを教えてくれた。

 それは同時に、この剣がただの剣ではないという証――意志を持った、生物に近い存在であることを証明していた。


 竜樹の剣の新たな可能性に震えつつ、俺たちは光の柱のもとへ。

 そこには想像していた通り、美しく輝く魔法薬草が。


「間違いない……これが無月草だ!」


 俺たちはついに無月草を発見した。

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