第260話 幻の薬草を求めて

 伝説の薬草。

 そのヒントを求めてママラウネことミューザさんのもとを訪れた俺たちだが――そこで得られたのは嬉しくない事実だった。


「その感じからして……手に入れるのは相当難しい、と?」

「…………」


 どう答えたらいいのか分からないらしいミューザさんは、ただ静かに頷くことで俺の質問に答える。

 ……そりゃそうか。

 簡単に手に入るようなら幻なんて御大層な言葉はつかないし、そもそもスラフィンさんを通して俺に依頼してくるわけがない。

 とはいえ、せっかくスラフィンさんが頼りにしてくれたのだ。

 このまま引き下がるわけにはいかない。

 他のみんなも、入手が困難というのは最初からある程度覚悟はしていたので思ったほど落胆はしていないようだし。


「具体的にどうすれば手に入るのか、教えてくれませんか?」


 入手方法が難しいというのは分かった――が、実際にその方法を聞かない限りは判断ができない。案外、俺たちがやってみたら簡単だったなんてことも可能性としてはゼロではないのだから。


 少し戸惑ったような態度を見せたミューザさんだが、俺たちがいかに本気でその薬草を手に入れようとしているのか、その意気込みが通じたようで、ゆっくりとだが状況を説明していく。


「薬草が生えている場所に向かうこと自体は困難じゃないの」

「では、何が難しいんです?」

「出現するタイミングよ?」

「タイミング?」


 タイミング、ねぇ……ちょっとピンと来なかったので、もう少し詳しい状況を尋ねてみた。すると、驚くべき情報がもたらされる。


「その薬草というのは……普段は土の中に生えているの」

「えっ!?」


 土の中に生えている植物――って、そんなのがあるなんて初耳だ。他のみんなも聞いたことがないらしく、揃って首を傾げていた。


 ――ただ、ハノンだけは違っていた。


「聞いたことがあるのぅ……確か、名前は無月草じゃったか」

「その通りよ」

「ハ、ハノンは知っていたのか?」

「特徴に合致する植物については、な。ただ、あれが万病に効く薬草だというのは知らなかった」


 なるほど。

 ただ、さすがというべきか、ハノンの母親であるミューザさんはその無月草が万病に効く効果を持っていると知っていたようだ。

 

「無月草には確かに強力な回復効果が含まれているけど……手に入れるのは正直言ってあきらめた方がいいレベルよ」

「そ、そんなにですか!?」


 誤魔化したりせず、直球で「無理」と言い切ったミューザさん。

 あそこまでハッキリ言いきられてしまうと、逆にどれだけ難しいのか気になってしまうのが人の性ってヤツだ。


「なぜそこまで難しいんですか?」

「……無月草が生えているのは夜空に月が浮かぶ頃から朝日が昇るまで。つまり、朝には枯れてしまうの」


 月が無いと生きてはいけない草。

 だから無月草ってわけか。


 生えている場所が近いっていうのは幸いだったけど……これは思ったよりずっと厄介な案件らしい。

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