第259話 再会のママラウネ

 幻の薬草について詳しい情報を持っていそうな者として、新たにハノンの母親――的存在であるママラウネに会うため、砂漠の村ダッテンへ向かうことにした。


 一応、キアラの使い魔を通してスラフィンさんへこの件を報告。さらにグレゴリーさんにも少し留守にするという旨を伝えてから旅立った。

 いざとなればクラウディアさんもいるし、その点は安心だ。


 ダッテンに到着すると、すぐに村長のエドワーズさんがやってくる。


「おぉ! ベイル殿! お久しぶりですな!」


 ハイテンションでやってきたエドワーズさん。それに、村人たちからもやたら手厚く歓迎されるが――その理由はオアシスにある泉周辺を見て理解する。


 そこには立派な大農園があった。

 砂漠のど真ん中にあるとは思えないほど瑞々しい野菜たち。それを収穫している村人たちの表情も実に生き生きとしていた。


「凄い……こんなに大きくなったんですね」

「ベイル殿が手掛けてくださったおかげです。――それに、今では心強い協力者がいますから」

「協力者? ――あっ!」


 誰だろうと農園を見回していたら、その人物とバチッと目が合った。

 もちろん、それはハノンの母親であり、今ではこのダッテン村の一員となっているママラウネであった。その横には姉妹である赤い髪のアルラウネもいる。


「まあ、久しぶりね」

「はい。お元気そうで何よりです」


 ママラウネと赤い髪のアルラウネは変わらず――いや、見た目こそ変化はないが、あるところに以前とは大きく異なった部分があった。


 それは――ふたりに名前がつけられていたことだ。


 まず、ママラウネにはミューザという名がつけられ、娘である赤い髪のアルラウネはホリーと名づけられた。これはエドワーズ村長夫人が提案したものらしく、名前がなければ呼ぶ時に不便という実にシンプルな理由からであった。


 しかし、これによって村人とふたりのアルラウネの間に残されていたわずかな溝は完全に埋まり、今では人間とまったく変わりなく楽しく過ごせているという。


 おまけに、ミューザさんの能力によって農園では野菜が元気よく育ち、おかげで村にとって重要な収入源となっているらしい。

これにはハノンもホッとしていた。

 口にこそださなかったが、きっとうまくやれているか心配していたのだろう。


 思わぬ形で嬉しい報告を受けた俺たちだったが、本題は別のところにある。

 農園での休憩時間の際、俺はミューザさんに幻の薬草について尋ねてみる――と、


「人間が幻と呼ぶ薬草……いくつか心当たりがあるわ」


 なんと、幻と呼ばれた薬草は一種類だけではないらしい。

 種類を絞り込むために、俺はスラフィンさんから事前に聞かされていたその薬草の特徴を伝える。


「魔法薬の権威という人物が探している薬草なのですが……どうやら万病に効くって話らしいです」

「病を治す薬草ね。それなら、ここからそれほど遠くない場所にあるわよ」


 めちゃくちゃ有力な情報が得られた。

 きっと、ノーヒントで探すとなったら大変だから幻の薬草ってことになっているのだろうけど、さすがにここまで長く生きたアルラウネであれば場所の特定も容易というわけらしい。


 ――が、次の瞬間、ミューザさんの表情が曇る。

 やはりというか……そう簡単に手に入るものではないらしい。

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