第258話 アイリアの記憶

 幻の薬草について話をした途端、アイリアの表情が変わる。


「その顔は……何かを知っている顔だね?」

「うっ!」


 俺が指摘すると、まるでお手本のような慌てぶりを披露するアイリア。いつもならこちら聞かなくてもいろいろ喋ってくれるのだが……どうにも様子がおかしい。それはキアラも感じていたようだ。


「どうしたのよ。何をそんなに動揺しているの?」

「いえ、その……はい。正直に話します」


 キアラに真っ直ぐ見つめられ、アイリアは観念。

 幻の薬草について知っている情報を話す――のかと思いきや、実はそういうわけではないらしい。


「ハッキリ言うと、その幻の薬草というのがなんなのかはまったく見当がつかないんだけど……そのフレーズには聞き覚えがあったんだ」

「と、いうと?」

「遠い昔……まだ僕が今よりも幼い子どもの頃に、誰かから聞いた記憶がある」

「アイリアの幼少期……」


 彼女は自分の出自についてほとんど知らない。

 うちのメンバーの中では間違いなく一番壮絶な過去を持っているのはアイリアだろう。


 だが、話を聞く限り、その幻の薬草とやらは危険な稼業に身を投じる前のアイリアの記憶に何かしらかかわりを持っているらしいことが判明する。


 まあ、彼女の思い過ごしという可能性もなくはないが、火のないところに煙は立たないというし、そいつを見つけたらきっと何か分かるはずだ。


 そもそも、アイリアという名前も彼女がギルドに登録する際、勝手に決めた名前であるらしいので、本名は別に存在している。もしかしたら……なんらかの理由で本来の家族から引き離されているのかもしれない。


 そのことを告げると、


「関係ないかな」


 意外にも、アイリアの反応はサッパリしたものだった。


「僕は僕だよ。どこで生まれて誰の子どもかなんて関係ない――僕は僕の意志で、このダンジョン農場にいるんだから」

「アイリア……」


 見習いたいくらいの前向きさだな。

 ちょうどその時、俺たちのもとへハノンとシモーネがやってきた。


「少しよいか?」

「あ、あぁ、どうした?」

「その薬草の正体が分かるかもしれないんです!」

「ほ、本当か!?」


 思いもよらぬ情報だった。


「何か思い出したのか、ハノン!」

「いや、そういうわけではないのじゃがな……薬草とか、その手の情報に詳しい者に心当たりがあるんじゃよ。――お主たちもあったことがある者じゃ」

「俺たちが会ったことのある人物?」


 えっ?

 誰だろう?


 俺たちがこれまで出会った中で植物に詳しい者……キアラとアイリアも一緒になって考えている――が、やがて全員がその答えに行き着き、同時にその名を口にする。


「「「ママラウネ!」」」

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