第252話 新たな婚約者?
クレンツ王国内でも強い権力を有するブリッジス家の令嬢――ケイネ・ブリッジス。
彼女は俺の婚約者になったと宣言したが、これを聞いて黙っていられないのは、
「異議ありですわ!」
シャーロットだった。
「あなたは?」
「わたくしはベイルさんの婚約者であるシャーロット・ブラファーですわ!」
「あぁ……元婚約者の」
「っ!?」
「元」の部分をわざとらしく強調され、シャーロットは何も言い返せなくなる。
……そうなのだ。
確かに俺とシャーロットは婚約者同士だった――が、それはあくまでも過去のこと。それから婚約関係は解消されている。それでも、なんやかんやあって今は一緒に暮らしている仲だけど。
――って、ちょっと待てよ。
相手である俺を前に堂々と婚約者って言ったからには、オルランド家もこの縁談を認めているということか?
この手の話は大体ディルクにいくものだろうと思っていた。
オルランド家がわざわざ俺を追いだし、養子として迎え入れたくらいだからな。わざわざこちらに仕向けてくるようなマネはしない……と、考えたが、なりふり構っていられない状況なのかもしれないな。
とはいえ、当然ながら俺がこの話を受けるはずがない。
もうオルランド家とはかかわりたくないし。
ケイネには悪いが、断らせてもらおう。
「わざわざ訪ねてきてもらって申し訳ないが……俺はもうオルランド家とかかわりのない人間だ」
「そのかかわりが、私と結婚をすることで復活しますよ?」
「残念だけど、俺としてはそれを一番避けたいんだ」
「なっ!? オ、オルランド家に返り咲きたいとは思わないのですか!?」
「えっ? う、うん」
そんなに声を荒げることか?
――まあ、確かに、貴族生活に慣れている者が急に農家へ転身となったら、そりゃあ生活水準のギャップを感じて嫌になるってケースはあるだろう。
けど、俺の場合は半ば望んで今の生活をしている。
仮に俺が神授鑑定の儀で竜樹の剣以外のアイテムを授かったとしても、きっと今のようにダンジョン目指して家を出ていたはずだ。
しかし、どうにもケイネは俺の答えが受け入れられないようで、グイグイと押し迫ってくる。
「貴族としての地位を捨ててまで農家になる覚悟がある、と?」
「覚悟というか……俺がやりたくてやっているわけだから」
「の、望んで農家になっていると!?」
……どうやら、ケイネは俺が仕方なく農業に従事していると思っているらしい。そうすることでしか生きる術がなく、以前のような貴族らしい生活に戻れることをチラつかせれば、婚約できると踏んでいたようだ。
ってことは、ひょっとして婚約者という話も彼女が自分で言っているだけ?
「さっきの婚約者っていう話だけど……あれは両家の合意があって決められたことなのかな?」
「っ!?」
俺の指摘を受けたケイネは黙りこくってしまった。
言葉にしなくても、その態度で十分分かったよ。
「その様子だと……自分のご両親にも婚約のことを話していないみたいだね」
「な、何よ、それ!」
今度はキアラが怒りだしてケイネに詰め寄ろうとする――が、俺は手を伸ばし、彼女を制止する。
何やら……深い事情がありそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます