第251話 訪ねてきた者

 遅かれ早かれ、こうなる展開は予想していたが……やっぱり、勲章をもらったとなると今までのようにはいかないか。


 ただ、俺としては当初の意志を貫こうと考えている。

 それは――農家として生き続けること。

 竜樹の剣を授かったのだって、あれはきっと運命だ。かつて【ファンタジー・ファーム・ストーリー】をプレイしながら夢見ていた生活が実現し、ようやく理想が叶っている今……それを捨てる理由などない。


 俺はそれをブリッジス家に伝えるつもりだ。

 どんな好条件を出されても、俺は今の生活を捨てない――これだけはハッキリと言っておかないとな。


 グレゴリーさんから情報をもらった次の日。

 俺はこの手の話題に強いシャーロットとキアラのふたりを連れて商会を訪れる。

 すると、昨日の話に出ていた騎士と思われる成人男性ふたりがこちらへと歩み寄ってきた。


「ベイル様ですね?」


 ベイル「様」か。

 そう呼ばれるのはかなり久しぶりだ。


「あなた方がブリッジス家の使いですね?」

「はい。今日はあなたにお話があってまいりました」

「……ブリッジス家の当主様が俺に話を?」

「いえ、話があるのはダナン様ではありません」

「えっ?」


 使いの者から発せられる驚きの言葉。

 ……って、ちょっと待て。 

 彼らがブリッジス家の者であるのは間違いないようだけど……当主の命令で動いているわけじゃないのか?

 だとしたら、独断での行動?

 いや、それが許されるとは考えづらい。


 なら……一体誰の指示で動いているんだ?


「どういう意味ですの……?」

「当主のダナン様が相手じゃないというなら、一体誰がベイルに用があるっていうの?」


 シャーロットとキアラも状況が飲み込めず、騎士たちへと詰め寄る。

 すると、


「私です。――私が、ベイルさんに用があるのです」


 突然そんな声が背後から聞こえてきたので振り返る。視線の先にはひとりの女の子が立っていた。

 ――あれ?

 この子は確か……


「君は……勲章授与式の時に控室の前でぶつかった……」

「はい。あの時は失礼いたしました」

「い、いや、そんな」


 ペコリと頭を下げた少女に、俺は思わず動揺する。

 まさか、この子が俺に用があるっていうのか――というか、ブリッジス家の人間を従えているということは、彼女はひょっとして……


「申し遅れました。私の名前はケイネ・ブリッジスと言います」

「ケイネ……さん?」


 ブリッジスという名前から察するに、彼女は現当主であるダナン・ブリッジスの娘であるらしい。


 ――が、次の瞬間、彼女の口から恐るべき言葉が飛びだした。


「あなたの婚約者となりましたので、以後お見知りおきを」

「……へ?」


 一瞬の静寂の後、商会内に全員の絶叫がこだました。

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