第250話 接触

 授与式が終わり、俺たちにいつもの日常が戻ってきた――と、言っても、周りの反応はこれまでとはちょっと違ってくる。


 ドリーセンの町へ野菜を届けに行けば、いろんな人から声をかけられるようになった。まあ、前からあの町の人たちとは仲良くさせてもらっていたけど、最近はそれがパワーアップしたような感覚だな。


 しかし、それ以外では特に変わりなく日々は過ぎていた。

 ――だが、そんな平和な日常に大きな変化が訪れる。


 この日、朝早くからグレゴリーさんがツリーハウスへやってきた。

 普段は使いの者が来るので、商会トップであるグレゴリーさん自身がここまで足を運ぶということは珍しいのだが……まあ、そういう日もあるのかな程度のもので、別段慌てるほどのようなことじゃない。


 ただ、訪れた目的を聞いた時、俺はなんだか嫌な予感がした。


「俺を訪ねてきた人物がいる?」

「そうだ」


 グレゴリーさん曰く、前日に商会を訪れた人物が俺のことを捜していたらしい。今回もまた野菜に関する案件なのかなと思ったのだが、どうも違うようだ。


「やってきたのは成人男性ふたり……どちらも元騎士団の人間だな。どちらも見た記憶がある」

「元?」

「今は退団し、ある人物の屋敷を警備する専属の騎士となったようだ」

「その人物というのは……」

「君も知っているんじゃないか? ――ブリッジス家だよ」

「ブリッジス家……」


 確かに、聞いたことはある。

 当主の名前はダナン・ブリッジスと言って、オルランド家と並ぶくらい国内では力を持った貴族だ。

 そのブリッジス家に仕える者が、どうして俺を訪ねてきたんだ?

 貴族といえば、授与式にも出席してくれたタバーレス家ともかかわりがあるけど……あそことはまた違った事情で俺を訪ねてきたのかな。


「ベイル・オルランドを当主に会わせたいから場所を教えてほしいという彼らの言葉に対し、返事を保留しておいたが……どうする?」

「……相手は国内でも有数の大貴族ですし、会っても問題はないかと思います」

 

 考えられる可能性としては、俺からオルランド家の情報を抜きだそうとしているってところかな。

 ブリッジス家とオルランド家は、いわばライバル関係にある。追いだされ、今やオルランド家とはほとんど絡みのない俺でも、有益な情報を持っていると踏んで接触を試みたのか?


 ――ただ、ひとつ懸念材料があった。


「君がブリッジス家当主と会うことに前向きなのはちょっと意外だったが……まあ、仮に会わないと言ったところで彼らが大人しく引き下がるとも思えない」


 グレゴリーさんとまったく同じ考えを俺も抱いている。

 わざわざ回りくどく使者を寄越したのだって、穏便に済ませたいという気持ちからだろうけど、追いだされているという事実を考慮したら、俺が断る可能性の方が高いと予想するはず。

 下手に他の貴族と接触すれば、オルランド家も黙ってはいないだろう。

 タバーレス家のようにほとんど絡みがなければ、そうならないかもしれないが。

 

 ともかく、相手はきっとどんな手を使っても俺との接触に乗りだすはず。

 だったら……こちらから乗り込んでやろうじゃないか。

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