第253話 ケイネの狙い
俺の婚約者だと名乗り出たブリッジス家の令嬢・ケイネ。
だが、どうにもその婚約話がキナ臭くなってきた。
そもそも、俺を追いだしたオルランド家が勲章ひとつもらったくらいで俺を連れ戻すとは思えないからな。父上の性格を考えると、意地でもディルクに勲章を取らせようとするだろう。
そうなってくると気になるのは……ケイネの狙いだ。
なぜ、ろくに面識のない俺の婚約者を名乗ったのか。
ひょっとしたら、これはブリッジス家の仕掛けたことなのか?
何やら陰謀めいた予感もあるが、ともかくこの場で真相を知るのはケイネのみ。
――しかし、意外なことにケイネの方から俺に声をかけてきた。
「あなたは……本当に今の生活に満足しているのですか?」
「当然だ。毎日が充実しているよ」
間髪入れずに答えると、ケイネはギョッと目を見開く。さっきまでの発言が俺の強気からくるやせ我慢だと最後の望みを賭けたようだが……あいにく、その賭けはケイネの負けだ。
それでもなんとか婚約者として認めさせたいのか、何か言葉を発しようと必死に思考を巡らせているケイネ。
するとその時、商会の受付にいたジェニファーさんが、
「そんなにベイルと結婚したいの?」
唐突にとんでもない話題をぶっこんでくる。
これに対するケイネの答えは、
「いえ、別に」
非常にサッパリしたものだった。
「結婚したいわけではありませんが……彼には私の婚約者になってもらわなくては困るのです」
「それではまったく意味が通りませんわ! あなたの狙いをもっと分かりやすく、この元祖婚約者であるわたくしに説明なさい!」
シャーロットの言葉には概ね賛同するが……元祖婚約者って訳分かんないな。
「えぇっと……このままだと俺も意味がよく分からなくてなんか怖いから、どうして婚約者を名乗ったのか、その理由を教えてほしいんだ」
「……分かりました。少し長くなりますが」
「構わないよ」
むしろ、国内でも有力な貴族であるブリッジス家の令嬢が婚約者宣言をするくらいだから、相当アレなことがあったに違いない。
仮に、彼女がそのことで思い悩んでいるようならば解決に手を貸したいと思う。根は悪い子じゃないと思うし。
「私があなたの婚約者を名乗った理由についてですが……父の用意した縁談をなんとか破談に持ち込みたかったからです」
ふむ。
自分の縁談をぶち壊すために、俺との婚約を発表しようとしたわけか。
「オルランド家から追いだされたあなたは、きっと返り咲きを狙っているのだろうと思っていました。先日の勲章の件も、それを目指しているからこそ実現できたものではないかと」
「なるほど……ベイルがオルランド家に帰りたがっているから、自分との婚約をその交渉に使えると言い含めるつもりだったのね」
「その通りです」
キアラの指摘は的中――というか俺もそうじゃないかと思っていた。
それにしたって……何も俺を巻き込まなくていいんじゃないか?
ブリッジス家の名前をもってすれば、もっといい相手が見つかりそうなものだが……一体、ケイネの縁談の相手って誰なんだ?
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