第246話 勲章授与
わざわざレジナルド騎士団長が自ら赴いて俺に伝えたのは――噂になっていた勲章授与が現実になったということだった。
「式は明日。場所は城で行われる。明朝、迎えの者をダンジョン農場へ送ろう」
「は、はい」
「では、楽しみにしているぞ」
レジナルド騎士団長は最低限の連絡だけ済ませると商会を出ていった。
忙しい人だからなぁ……あまり長居はできないのだろう。
騎士団長が商会を出た直後、
「や、やったわね!」
「凄いですよ、ベイルさん!」
キアラとシモーネが飛びついてきた。
それに続いて、さすがにふたりのように飛びついては来なかったけど、ジェニファーさんも駆け寄ってきた。
「やったじゃない! 勲章授与となったら、これからますます忙しくなるわよ!」
「そ、そうですね」
俺の返事がどこか素っ気ないように感じたジェニファーさんは心配してくれたようだ。
「どうかしたの? 嬉しくない?」
「いやぁ……正直、実感が湧かないというか……」
これまで、グレゴリーさんから散々「あるかもしれない」と言われてきたから、自分でも「もしかしたら」って気持ちが心の片隅になかったわけじゃない。
しかし、実際にレジナルド騎士団長からそう告げられた時、どこか他人事のように感じていたんだよなぁ。
「まあ、ベイルとしては別に勲章が欲しくてやってきたわけじゃないからそう思うのも無理はないと思うけど……でも、これってとても凄いことよ?」
この手の事情に詳しいキアラが、優しくそう諭す。
俺としても、その価値自体がどのようなものであるかは把握している。
だから……本当は心から浮かれてもいいんだよな。
今までやってきたことが評価されたってわけだから。
「そうだな……ちょっと驚きすぎてどう反応していいか分からなかっただけだよ」
笑顔でそう答えると、ふたりもつられて笑う。
こうして、俺は国王陛下から勲章を授与される運びとなった。
それにしても、式は明日って……ちょっと急だなぁ。
ダンジョン農場へ帰ると、早速このことをみんなに伝える。
その反応は商会でキアラやシモーネが見せてくれたものとほぼ同じだった。ただ、この勲章は決して俺だけの力で得られたものじゃない。
頼れる仲間がいてくれたからこそ、俺はこれまでやってこられたのだ。
「それなら、今日の夕食は豪勢にしましょう!」
料理担当のマルティナはそう言うとすぐさまキッチンへと走る。他のメンバーは食卓の準備に取りかかった。
俺は準備を手伝う前に――勲章授与の一報を聞いてからずっと複雑な表情をしているクラウディアさんのもとへ。
「おめでとうございます、ベイル様」
「ありがとう、クラウディアさん」
まずは軽いやりとりから始め、その後に本題へと移る。
「心配事でも?」
「……今回の勲章授与について、ご実家に連絡は?」
「入れてないよ」
実家――つまり、オルランド家には報告していない。というか、あの家はもう俺と関係を持ちたくはないだろうからな。こうして勲章授与となっても、今さら絡んでくるなんてマネはしないだろう。
俺はそう睨んでいたが……どうやら、クラウディアさんは違うらしい。
「お気をつけください」
「えっ?」
「オルランド家の当主様が、このまま黙っているとは思えませんので」
「…………」
ある意味、俺以上に俺の実家の事情に詳しいからな、クラウディアさんは。
その忠告は胸にとどめておく必要がありそうだ。
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