第245話 予想外の来訪者

 ローダン王国から帰還して一週間が経った。

 この日も普段と変わりなく、野菜をライマル商会に届け終えると受付担当のジェニファーさんと談笑していた。

 一緒についてきたキアラとシモーネはダンジョン探索に必要なアイテムや日用品を買うため、一緒に商品棚を眺めながら相談している。


「それにしても……あなたたちがこんな大物になるなんて、まったく想像していなかったわねぇ」


 不意に、ジェニファーさんがそんなことを言いだす。


「なんというか、もっとこう……のんびりまったりやっていくものだとばかり」

「俺としてはそれを目指しているんですけどねぇ……」

「あら、そうなの? なんだか最近は『むしろもっと上を目指してやろう!』って気概を感じるんだけど」

「そ、そうですか?」


 自分ではそんなつもりはないんだけどな。

 今回のクーデターの件だって、俺たちが好きこのんで首を突っ込んだってわけじゃない。仮に、ローダン王国でそのような動きがあると事前に分かっていたら行くのを避けていただろう。


 ……ただ、もっと農場を大きくしたいという目標はあった。

 でも、それは農業をやっている者であれば必ずと言っていいほど目指すものではないかと思う。


「……勲章とかには興味がないんですけど、もっとダンジョン農場を大きくしたいという願望はあります」

「上昇志向はあるみたいね。まあ、そうでなくちゃ、あれだけの数の女の子がついてくるわけないかぁ」


 なんだか妙に納得してしまっているジェニファーさん――と、その時、店に新たな客が入ってくる。

 いつもの営業スマイルで「いらっしゃいませ~」と声をかけるジェニファーさんであったが、入ってきた人物の顔を見た途端、まるで凍りついてしまったかのように動かなくなってしまった。


 一体誰が来たんだ、と俺も振り返ると、


「やあ、久しぶりだな」


 現れたのは――クレンツ王国騎士団のトップであるレジナルド騎士団長だった。


「こうして直接顔を合わせるのは騎士団食堂の一件以来か?」

「レ、レジナルド騎士団長!?」


 思わず声が裏返ってしまった。

 俺の間の抜けた声に反応したキアラとシモーネがやってきて、こちらも突然来訪した騎士団長の姿を見て驚きに動揺する。

 騎士団長が言ったように、直接顔を合わせるのは随分久しぶりのことだ。

 特務騎士としての報告は担当する別の騎士がいるため、そちらとのやりとりがメインになっているからな。そもそも、騎士団長は多忙で詰め所にいないことも多いから仕方がないのだけど。

 そんな俺たちの慌てた様子を尻目に、レジナルド騎士団長は淡々と話を進めていった。


「噂はよく聞いているよ。大活躍しているそうじゃないか」

「い、いや、そんな……」

「謙遜するな。俺としても、君を特務騎士に任命して間違っていなかったと心から思えて嬉しいよ」


 ニコニコと笑いながら、俺の肩をバシバシと叩く騎士団長――だが、彼がこうして直接足を運んだということは……相当な事態であると察せられた。


「あの……俺たちに何か?」

「そうだった! 君たちを捜してこのドリーセンまで来たんだよ!」


 レジナルド騎士団長は勿体つけたように少しだけ間を空けてから、


「この度、君たちの勲章授与が正式に決定した」


 そう告げるのだった。

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