第243話 思わぬご褒美

 雪と氷に覆われたローダン王国で農業をする。

 環境的には絶望的と言っていいが、専用施設をつくることでその悩みは綺麗サッパリ消え去ることとなった。


 早速、グレゴリーさんたちを交え、今後の計画を練っていく。かなり大掛かりな作業となるため、職人の数もかなり増える見込みとなっていた。おまけに、この手の技術に長けている者がローダン国内に皆無という状況だったため、よそから集めなければならないという複雑な事態に。


 しかし、そこはグレゴリーさんの広い顔によりパス。

 すぐに職人の手配へと移り、早ければ一週間後にこの地へやってくるという。


「何から何まで……本当にありがとうございます」

「いえいえ、姫様の助けになったのなら幸いですよ」


 この頃から、国政の中心にはサリーナ姫がいた。

 一応、現国王も健在ではあるのだが、寄る年波にはかなわず、床に臥せている。近々正式な手続きを持って、サリーナ姫がこの国の女王となるだろう。


 そのサリーナ女王陛下が最初に打ち出した政策が、この施設を利用した農業への試みだった。


 残念ながら、俺たちは俺たちでマルティナの父親であるヒューゴさんなど現在抱えている顧客がいるため、この国に長居はできない。

 そのため、グレゴリーさんは職人の他に農業に精通している者を何人かこの地へ送ると約束した。本当に凄い人脈だな。


 というわけで、話がひと段落ついたところで、俺たちはそろそろクレンツ王国へ帰る準備に取り掛かった。


 ツリーハウスではクラウディアさんやウッドマンたちが帰りを待っているだろうし、何より俺たちがホームシックになりかけていた。ローダン王国も素晴らしい国だとは思うけど、やっぱり我が家が一番なんだよなぁ。


 本来、ここまで長くいるつもりもなかったのだが、例のクーデターの件もあって伸びてしまったから、グレゴリーさんも仕事がたまっているとぼやいていた。


 そんな事情もあり、俺たちは話し合いがまとまった次の日の朝にはクレンツ王国に向けて旅立つこととなった。


「また来てくれ。その時はゆっくりもてなすよ」

「ありがとうございます」


 シュルツさんと固い握手を交わした後、再会の約束をする。

 俺としても、このローダン王国をもっと見てみたいって気持ちはあるからな。


 帰り支度をしていると、グレゴリーさんが俺たちのもとへとやってきた。


「今回はお手柄だったな、ベイル」

「いや、そんな……俺は何も――」

「謙遜するな。今回は実に見事な働きだったぞ。ローダン王国とも親しくなれたし、これは間違いなく勲章が授与されるな」

「く、勲章!?」


 なんだかとんでもない話になってきたな。

 俺みたいなのが勲章なんて……まったく想像していなかった。


「それだけの価値がある仕事をおまえはやってのけた。まあ、国に帰る楽しみがひとつ増えていいじゃないか」


 グレゴリーさんは豪快に笑いながら言うけど……やっぱり、まったく実感が湧かないんだよなぁ。

 それより心配なのは、勲章をもらったことで俺を追放した実家がどう出るかという点だった。


 ディルクよりも先に勲章を得たら、父上はなんというだろうか。

 まあ、仮に戻って来いと言われても、絶対に戻らないけどね。

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