第232話 新しい神種

 ローダン王国で起きたクーデター。

 アドウェル王子は若い騎士たちを引き連れて、今後王政をしていくと宣言した――が、まだ国王は生きているし、正式に王位が継承されたわけではない。

 にもかかわらず、王子は強硬手段に打って出た。


 何が彼をそこまで焦られるのか……原因はサリーナ姫だろう。

 王位継承の順番で言うなら、長男であるアドウェル王子が最有力なのかもしれない。しかし、国民から絶大な人気を得ているサリーナ姫を次の王にしたいという勢力も少なからず存在している。


 まあ、これはサリーナ姫が国民のために動いてきた結果であり、ただ権力という座にあぐらをかいて座っていただけのアドウェル王子とでは評判に差が出るのは当然のことであると言えた。


 だからこうした強引な手を打ってきたわけなのだが……正直、それは悪手じゃないかなぁって思うんだよ。


「あのような乱暴な手段……国民の心が離れていく一方だ。アドウェル王子にはそれが分からないのか」


 静かに憤慨していたのはシュルツさんだった。

 幼い頃から兄妹のそばでその成長を見届けてきた彼だからこそ、そうした言葉が口をつくのだろう。


「それにしたって……いくらなんでも無茶苦茶でしょ」

「クレンツ王国では絶対にあり得ないじたいですわね」


 王位継承に関しては俺たちよりも詳しいキアラとシャーロットがあそこまで言うとはなぁ……ただ、近隣諸国への印象も悪くなるし、国民からの反発も必至。素人目に見ても賢い選択とは言えないか。


「それで……これからどうする?」


 アイリアの言葉で、俺たちはようやく「これから」について考えを巡らせることができた。あのアイリアが……成長したな。

 

「それについてだが、やはり王子の暴走を止めることを最優先に考えたい。もちろん、姫の安全も確保してからだが」


 つまり、やることはふたつ。

 そのうちのひとつは……新しくなった竜樹の剣で解決できる。


「シュルツさん。サリーナ姫の安全については、俺の力で確保できます」

「何?」

「厳密に言えば――こいつの力ですけど」


 そう言って、俺は竜樹の剣を掲げる。


「し、しかし、それは農業用に特化した能力しか使えないと聞いていたが……」

「応用するんです。たとえばこんな風に」


 話すよりも実際に見せた方が効果的だろうと考え、竜樹の剣に魔力を注ぐ。俺がやろうとしているのは――新しい神種を生みだすこと。

 やがて、淡い光に包まれた小さな種が剣先から出現する。


「こ、これは……」

「神種バルロック――別名、【緑の要塞】とも呼ばれるこの植物なら、どんな攻撃からも姫様を守れます」


 バルロックの種を地面に植えると、あっという間に成長していき――やがて超巨大な根が、身を寄せている武器倉庫を覆った。


「この根の中には入ることもでき、その内部はちょっとした空間になっていますからそちらにも逃げ込めます。解除するには竜樹の剣が必要になるので、事態が収束するまではここで待機していてください」

「うむ! これなら我らも存分に力を振るえるぞ!」


 サリーナ姫をバルロックの根で守りながら、俺たちは王子を説得しに王都を目指すことになった。

 ――とはいえ、きっと連中は話し合いに応じないだろう。

 そもそも、話す気があるなら、あんなマネはしない。

 戦闘は避けられそうにもないが……ここはやるしかないな。

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