第231話 「戦う」という選択
アドウェル王子と騎士たちが竜樹の剣によって生みだされた植物と交戦している間に、俺たちとサリーナ姫、そして姫につく一部の騎士たちはその場から離脱。
逃げた先は騎士たちの演習場。
そこにある武器や防具をしまっておく大きめの建物の中へと避難した。
本来であれば、サリーナ姫ほどの立場がある人物をこのような場所に入れるなどあり得ないのだが、状況が状況だけに仕方がなかった。幸いなのは、姫自身が置かれた状況をよく理解しており、不満を一切持っていないことくらいか。
「大変なことになったわね……」
「グレゴリーさんは大丈夫でしょうか……」
不安そうに呟くキアラとマルティナ。
そうなんだよなぁ……あの時の騒動が原因で、俺たちはグレゴリーさんたちライマル商会の人たちと離れ離れになってしまった。
あの人たちのことだから、あの混乱に乗じてうまいこと逃げきってくれているとは思うけど、早いところ合流した方がいいだろうな。
……いや、それよりもまずこれから先どうするかだ。
「君たちはこの先にある森を通って国外へ出るんだ」
悩んでいた俺たちにそう声をかけたのは姫の護衛隊長を務めるシュルツさんだった。
「ライマル商会の面々も必ず見つけだし、その旨を伝える。今回の件……本当にすまなかった。騎士団を代表して謝罪する」
シュルツさんは言い終えると深々と頭を下げた。
今回のクーデター事件――その中心は、王位継承権を強引に奪おうとするアドウェル王子だ。
若い騎士たちの多くは王子に賛同しているようだが……その忠誠心もどこまで本物か分かったものではない。付け入る隙があるとすれば、その点だ。
とにかく、俺が言いたいことは――
「シュルツさんにはなんの落ち度もありませんよ」
これだけは伝えたかった。
あと、もうひとつだけ。
「それと、俺はこの国を出るつもりなんてありません」
「な、何?」
「このクーデター事件がしっかりと解決しなければ、安心してクレンツ王国へは戻れませんよ」
「わたくしたちも同じですわ」
俺の横に立っていたシャーロットが一歩前に出て告げる。
それに続き、マルティナ、キアラ、ハノン、シモーネ、アイリアの五人も加わった。
結局、いつものメンバーでこのクーデターの解決に挑もうってわけだ。
こちらの意思を耳にしたサリーナ姫は、
「このたびは愚兄のせいでみなさんに多大なご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
シュルツさんと同じく深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
一国の姫という立場にある人物が、ただの農夫である俺に対してここまで真剣に謝るなんて……あり得ない光景ではあるものの、それがかえって彼女の真摯な姿勢を浮き彫りとさせた。
「サリーナ姫様……気にしないでください。身内のことでゴタゴタがあるのは、俺も経験がありますから」
従弟のディルクがまさにそんな感じだったしな。
まあ、国家最大の権力を掌握できるという点では、アドウェル王子の方が数倍タチ悪いけど。
とにかく、俺たちは逃げずに戦う道を選択した。
問題はどうやって王子の暴走を食い止めるか、だな。
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