第230話 逃げ道
アドウェル王子からの求婚を拒否するため、マルティナが取った苦肉の策。
しかし、それはまた別のトラブルの火種となりそうなものだった。
……うちの女性陣がざわついているけど、今はとりあえずこの場をなんとかやり過ごすことを考えないと。
今のアドウェル王子には、何を言ったところで無駄だろう。かと言って、時間が解決してくれるって悠長な構えもよろしくない。実際にこの国で暮らす人々にとって王が交代するというのは一大事。その交代する相手がこの調子では、民にとって死活問題になってしまうからな。
だが、王家のしきたりというべきか、こういった交代劇に部外者である俺たちは何も言えない。
本音を言えば、国民のために新しい産業へ乗りだそうと積極的に動いているサリーナ姫の方が、次期国王としては適切なのだろうけど……第一王子であり、王位継承の最有力候補であるアドウェル王子に取り入ろうとする者たちが、彼を支援しているため、完全に姫サイドが劣勢だった。
さて、渾身の求婚をあっさりと断られてしまったアドウェル王子が次に出る行動といえば――
「マルティナと言ったな。残念ながらおまえに拒否権はない」
「な、なぜですか?」
「俺は王様だからな」
もう全部その理論で押し通すつもりなのか、この人は。
もっとも権力を握らせてはいけないタイプだ。
「お兄様、いい加減にしてください!」
これにはサリーナ姫も激高。
だが、相変わらずアドウェル王子は確定している勝利に酔うような、不敵な笑みを浮かべ続けていた。
「もはやおまえが何と言おうと、関係ない! 俺に逆らうヤツは全員まとめて牢にぶち込んでおく。それでも逆らうようなら反逆罪として処刑だ!」
ついに処刑なんて物騒な単語まで飛びだした。
俺たちを取り囲んでいる騎士たちが、少しずつ距離を詰めてくる――さすがに、これ以上は黙っていられないな。
俺は周りに気づかれないよう、竜樹の剣に微量の魔力を注ぐ。
こういう時、パッと見はただの木剣にしか見えないこいつは頼りになるな。誰ひとりとして警戒していないのだから。
ある程度の魔力がたまったところで、気づかれないようにコンと剣先で地面を叩いた。
これが、発動の合図――うちのメンバーは日頃からその光景を目にしているため、すぐに俺の行動を理解して構える。
――と、次の瞬間、地面から雪に埋もれた地面を突き破って巨大な植物の根が姿を現す。その光景はさながらモンスター襲来って感じだ。
「な、何事だ!?」
当然、ローダン王国側の人々は大パニック。
無理もない。
本来であれば、サリーナ姫の魔力によってモンスターは王都内に入って来られないようになっているからな。まさか内部から魔力によって生みだされた植物の根だとは思わないだろう。
「な、何をしている! すぐに倒せ! 俺を守れ!」
周りの騎士たちへがなり立てるアドウェル王子。
こうした緊急事態にも、率先して周りを引っ張ろうというリーダー的な気質は皆無のようだ。
ただ、騎士たちにとって国王を守るのは使命のひとつ。
すぐに竜樹の剣によって生みだされた植物の根に立ち向かっていくが――あまりにもサイズが違いすぎた。
左右にブンブンと振り回るだけで、騎士たちは近づくことができずにその場へとどまるしかない。
「何をやっているんだ! 早くやれ!」
怒鳴るだけの王子。
その視線はモンスターに注がれ、俺たちから外れている。
離脱するチャンスは今しかない!
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