第228話 クーデター

 同じ国の騎士団に所属する騎士たちが、互いに剣を向け合っている。

 それは実戦形式の鍛錬などではなく、本気で対立するという意志が透けて見える構図となっていた。


「な、何が起きたというの……」


 困惑するサリーナ姫。

 きっと、このような状況は初めてなのだろう。

 もちろん、それは俺たちも同じだ。

 ……ただ、この状況を表すのに最適な言葉を俺は知っている。


「もしかして……クーデターか?」

 

 騎士たちによる反乱。

 それが、今のような状況を生みだしている要因ではないだろうか。問題はなぜクーデターが起きてしまったのか……その理由については、この国に来て間もない俺たちには皆目見当もつかない。


 しかし、それを起こす可能性が高そうな人物には心当たりがあった。


 ――王位継承権を持つ、アドウェル王子だ。


 本来であれば、このようなマネに打って出なくても彼は次期国王の座につくことが約束されている。ゆえに、クーデターの元凶からもっとも遠い人物のはずだった。


 でも、昨日のサリーナ姫とのやり取りを見る限り、彼が望んでいる王としての姿はそのようなものではないように感じた。

 

 アドウェル王子の王位継承を阻む可能性があるのは、サリーナ姫のみ。国民からの支持もあり、今も新たに農業を始めようと奮闘している彼女の存在は、国民にとって大きな励みとなっている。


 人々が抱くその感情が、アドウェル王子にとってもっとも危惧すべきものだった。

 普通なら自分も負けじと国のために何かを成し遂げようとするはずだが、アドウェル王子はそれを蹴って実力行使に出た――騎士団のクーデターの裏にあるシナリオとしてはそれが一番しっくりくる気がする。

 そう思った次の瞬間、


「あっ――」


 騎士たちと一触即発状態にあるシュルツさんの視線が、一瞬だけこちらへと向けられる。

 ……そうだ。

仮にさっきの考え通りだとしたら、誰よりも危ないのはここにいるサリーナ姫だ。

 恐らく、シュルツさんは俺と同じ考えに至り、姫を心配して一瞬こちらへ目配せをしたのだ。


「……ここにとどまるのはまずい」

「そのようですわね。――サリーナ様」

「…………」

「サリーナ様?」

「っ! あっ……は、はい」


 信頼していた騎士たちの裏切りを目の当たりにしたサリーナ姫に、シャーロットの言葉は届いていなかった。なんとか我に返り、話ができるような状態となったため、今後について簡単に説明していく。


「今からすぐに城から脱出をします」

「だ、脱出を?」

「騎士たちは姫様の身柄を拘束しに来るはずですから」

「ど、どうしてそんな――」

「それは騎士たちを率いているのがこの俺だからな」


 突如聞こえてきた――最も恐れていた人物の声。


「ア、アドウェル王子……」

「農家風情が、生意気に気取ってんじゃねぇよ」


 多くの騎士を引き連れたアドウェル王子が、部屋へと入ってくる。


「兄上、これは一体何のマネですか!?」

「はっ! 賢いおまえなら、もうとっくに理解しているはずだろう?」

「そ、それは……」


 やはり、サリーナ姫も今回の事件を誰が引き起こしたのか――その見当はついていたようだな。

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